第65話 恐怖と希望のはざまで
自分が損をするような出来事だけは、何としても避けたい。
けれど、和馬が夜逃げして、姿を消すのではないか?
そのような恐怖が頭を離れず、
「和馬の身元だけは、確保しておきたい」
と必死に思った。
だけど、どうしたらいいのか分からなくなり、私は自分の無力さを痛感した。
何をしても
「あなたが悪い」
と言われてるような気がして、自分の存在が、どうでもいいように思えてきて、気づけば自暴自棄の淵に立たされていた。
「私は、和馬に追わされた支払いのためだけに、働いて生きてるのか?」
そう思うと、ますます心がかき乱されていった。
「もしこのまま、和馬が蒸発して、私の知らないところで借金を作り、それが発覚した時に、そのお鉢が私に回ってきたらどうしよう」
そんな不安にも駆られていた。
それでも私は諦めなかった。
1日でも早く『既婚者』という肩書きから解放されたかったから、あれからも数多くの弁護士事務所に問い合わせを続けた。
すると、ある弁護士から電話がかかってきて、軽い電話面談をした。その時、すごく親身になってくれてる雰囲気が伝わり、純粋に嬉しかった。
「今度お越しいただく際、分からなければ、お迎えに上がります」
と言ってくれ、丁寧で気遣いのできる方だと感じた。
「後日、その弁護士事務所に伺う予約をしてたが、電話で話した時みたいに、親身で、私にぴったりの弁護士であれば、この人なら信頼できるかもしれない」
そんな期待を抱いた。わざわざ遠方から訪ねるのだからと、なおさらそう願った。
実際にお会いした時も、問い合わせた内容と同じことを丁寧に説明してくれたが、対面でお会いした際、弁護士なら、本来はスーツ姿が多いのに対し、この男性はカジュアルな私服だった。
形式ばった雰囲気がなく、むしろ親しみやすさを感じたが、同時に『頼れる専門家』という印象が薄れてしまい、複雑な気持ちになった。
経済的に余裕がないことを伝え、
「払える範囲でお願いしたい」
と主張すると、
「それでもいい」
と言ってくれた。
この時、やっと良心的な弁護士に出会えたと思えたが、契約の際に
「本来なら、経済的なことになると、夫婦共有財産として扱うのが一般的ですが、今回は、小島さんの事情を考慮して、こちらで引き受けますね」
と言われたが、電話での印象が良かったので、
その時は深く考えず、
「これで問題が解決するなら」
とスルーしてしまった。
けれど、この弁護士を雇ったことが、後に私の負担をさらに増やすことになるとは、この時は思いもしなかったのでした。




