第57話 直感を押し殺した代償と彼との結婚を振り返って
あれから私は、和馬の告白にOKし、交際を始めたわけだが、和馬と付き合い始めた頃、彼は
「家族はいない」
と言っていた。
両親も兄弟もいなければ、他に頼れる人もいない。
そう語る彼に、私は少しだけ共感した。
私も、実家とは疎遠で、身元保証人すらいない立場だったから、孤独を抱えている者同士、
『どこか似てるかもしれない』
って思ったこともあった。
だから、結婚の話が出た途端、すべてがトントン拍子に進んだ。
和馬とは、交際1か月で入籍したが、プロポーズらしい言葉もなく、ただ、和馬の勢いに押されて、気づけば結婚していた。
結婚記念日も、記念らしいことは何もなく、式も指輪も望んでたわけではなかったけど、
『何かが残る』ような瞬間は、どこにもなかった。
また、繁忙期に籍を入れたせいか、
「本当に結婚したのかな?」
という実感すら湧かなかった。
和馬は、結婚前まではリードしてくれてたけど、結婚した途端、
「お金貸して!」
の言葉が、頻繁に飛び出すようになった。その度に、
「返すから!」
と言いながら、言い訳ばかりで返ってこないことがほとんどだったから、私の中で何かが冷えていった。
新婚旅行は、『夢の国』へ行った。
本当なら、思い出に残る楽しい時間になるはずだったが、現実は違った。
また、その時期はかなり寒かったから、本当を言えば、夢の国なんて行きたくなかったのに、和馬は、私の主張を徹底的に無視し、自分の欲望を一方的にゴリ押ししてきた。
結局、私は自分の気持ちを押し殺すしかなく、ただ流されるように旅に出た。
現地に着くまでは
「迷惑はかけない」
「新婚旅行だから、好きなものを食べていい」
と散々言ってきたくせに、結局、旅行代のほとんどを、私が負担するハメになった。
普段の日常生活においても、スマホの後払い機能や分割払いも、和馬の自己中心的な行動のせいで、私に支払いが回ってくるよう仕向けられ、毎月の金銭的負担が増えていく一方だったし、完全に依存されてると言っても過言ではない状態だった。
「給料入ったら、俺が補填する」
と口では何度もそう言ってきたが、結局払ってくれることはなく、同じことの繰り返し。
極めつけは、私が寝てる間に、お土産用に入れてたお金が消えていたこと。和馬を問い詰めても
「取ってない」
と言い張り、
「ホテルの人が盗んだ」
と平気で嘘をついてきたのだ。
だけど、私は和馬と違って、しっかりしてるから、貴重品は自分で持ってたし、和馬のスマホを確認しても、ホテルに電話したという発信履歴もなかった。
「盗んだ金は俺の口座に入金する」
「盗んだ人は警察に突き出す」
と和馬は言ってきたけど、そんな言葉も、どこか嘘っぽく聞こえ、
「やっぱ信じきれないな」
って思った。
仮にもしそれが本当なら、すぐに返金の手続きをするはず。
だけど、そのお金は返金されてないし、和馬は
「俺の口座に入金する」
って言ってきたけど、本当に
「ホテルの人が盗んだ」
って言うなら、盗んだ人の口座に直接入金するものだよね?
こればかりは、
「はい、そうですか」
って納得できるような言い分どころか、引っかかる言い訳にしか聞こえなかったし、
「こんな危機にまた遭遇するなら、和馬とは2度とお出かけしたくない!」
そう思ったし、結局、盗まれたお金が返金されることはなかった。
『夢の国』でさえ、私は心から楽しむことができなかった。和馬の不誠実な言動が、私の心を冷やしていった。
「和馬と一緒にいて、私は本当に幸せになのかな?」
そんな疑問が、ずっと頭の中でぐるぐる回ってた。
理想ばかり並べては、私に夢を見させるようなことばかり言ってきたくせに、実際は、私の財産を奪うような言動ばかりで、完全にヒモにされた。
しかも、私が住民票閲覧制限をかけてることを知ってるのに、SNSに、私の顔を私の許可なしに勝手に投稿していたこともあった。
私は、自分を守るために、これまで静かに、慎重に生きてきた。それなのに、和馬はその境界線を、何のためらいもなく踏み越えてきたから、私は、だんだん和馬の存在を
「迷惑な寄生虫夫だな」
と感じるようになった。
そういった出来事から私は、『夢の国』という賑やかしい場所が大嫌いになった。
今はもう消えかけてるが、和馬と接触するようになってから、口唇ヘルペスになったり、無性に身体が痒くなることがあった。
それが何なのか、その時は分からなかったけど、まるで身体が
「こいつとは、距離を置いた方がいい」
と訴えているような、そんな感覚があったが、私はその違和感も見過ごしてしまった。
今思えば、和馬に言い寄られた時、
「どこか違うな」
と感じてたのに、断りきれずに付き合って、三浦さんの助言を受け入れてしまって、結婚までしてしまった。
『時既に遅し』
とは、こういうことを言うんだなと改めて実感した。
こんな惨めな思いをするくらいなら、誰がなんと言おうと、自分の直感を信じてきっぱり
「NOと言っておくべきだった」
と心の底から後悔したのでした。




