第48話 静かな灯りのような出会い
お寺で住み込みの仕事を始めて、1ヶ月くらい経った頃、密かに
「仲良くなれたらいいな」
と思う異性がいた。
彼は『金さん』という中国人で、私より2つ年上。背が高くて、気さくで、親しみやすい人だった。
金さんは週に1度のペースで、お寺に顔を出してくれて、特に私が新人だった頃は
「仕事には慣れた?」
と、気遣ってくれる優しさがあった。
どんな話題にも乗ってくれる金さんとの会話はすごく楽しくて、次第に
「もっと彼のことを知りたいな」
と思うようになった。
けど、これまで私が好意を抱いてきた異性は、既婚者だったり、彼女がいたりと、所謂、人のものが恋しくなることが多く、金さんにはその時、恋人はいなかったけど、思えば思うほど胸が苦しくなって、
「私からではなく、もし彼も私に少しでも好意を持ってくれているなら、向こうから来てほしい」
と、そんな淡い期待を抱いてたこともあった。
けど、一向に進展する日は訪れず、彼はビザの関係で、1ヶ月後には、中国へ帰国することが決まっていた。
「いずれ、離れ離れになるのは分かっていたけど、せめて最後は、きちんと挨拶をして、お別れをしたい!」
そう思い、金さんがお寺に訪れるのが最後となった日、私は2人きりになれるタイミングを見計らって、緊張しながらも勇気を振り絞り、こう伝えた。
「今までお寺に顔を出してくれて、特に私が新人の頃、気にかけてくれてありがとうございました。金さんとお話できて楽しかったです。また、どこかでお会いできたら嬉しいです」
と言った後、思い切ってその場でメッセージ交換し、改めてもう1度
「今までお寺に顔を出してくれて、ありがとうございました。金さんともっとお話したかったです。また機会があれば、日本に遊びに来てくださいね。」
と送った私に、金さんから返ってきたのは、
「僕も挨拶できて良かったです。また日本に来る時は連絡しますね。」
というメッセージだった。
私の思いは、静かに胸の中に残ったまま。それでも、あの一言を伝えられたことは、私にとって小さな灯りのような、確かなケジメだったのでした。




