第45話 制度の壁と冷たい言葉
実はゲストハウスに住む前は、バイト先の寮に住んでいた。
田舎から上京する際、
「寮も紹介できる」
と言われたこともあり、それなら自分で探す手間が省けると思ったから。
けれど、イタリアンレストランのバイトを辞めたことで、急遽、寮を出なくてはいけなくなり、そんな時に『ゲストハウス』という存在を知った。
家賃・光熱費込みで5万円前後。しかも新築で、家具家電も揃っている。都会でそれくらいの金額で住めることに、すごく魅力を感じた。
「都会で家賃を安く済ませようとすると、オンボロアパートが多い。それなら、完全な1人暮らしをするよりも、ゲストハウスで生活する方が出費を抑えられる」
そう思い、私はゲストハウスに住むことを選んだ。
そして、これから住む地域の役所で
「住民票にロックをかけたい」
と相談し、事情があることも説明した上でのお願いだったが、相談員はこう言ってきた。
「私たちの判断では決められません。警察の許可が必要です」
「以前も都会に住んでましたよね? その時は警察に相談したんですか?」
と聞いてきたから、私は正直に答えた。
「その時は家族も住所を知ってたし、そもそもそんな制度があることも知りませんでしたので」
と言うと、その相談員は
「知らなかったじゃねーよ」
「どうして1人暮らしするタイミングで、警察に行かなかったんだ」
「それに、産んでくれた親だろ」
と暴言を浴びせられた。更に、
「どうしてもって言うなら、あなた1人で警察に行け」
と言われ、まるで他人事のように思えたし、相談員と名乗る割には、そんな暴言を吐いてくる対応に、私は深く傷いた。
「この人、本当に相談員さん?」
「相談員なら、『今まで大変でしたね』って寄り添うものじゃないの?」
「こんな暴言を吐いてくるなんて、こいつ、絶対元ヤンとかでしょ」
そう思わずにはいられなかった。
私は家族に居場所を知られたくなかったから、言われるがまま警察へ向かったが、この時、運が悪いことに、私を対応してくれた警察安全課の方も、私のことを子ども扱いしながらこう言ってきた。
「おじさんは神様じゃないからね。どういう目的でこの制度を利用したいのか、細かく説明してくれないと分からないよ」
その言い方が、まるで私を見下しているような言い回しだったから、本当は話したくなかった。それでも、家族からの精神的・身体的暴力について、勇気を振り絞って説明したが、
「物的な証拠がないと対処できません」
「ひとり暮らしを始めた時点で、警察に相談してこなかったんだから」
そう突っ返され、結局、警察からの許可は降りなかった。
「せっかく警察まで行って、思い出すだけでも辛い出来事を話したのに、動いてくれないなんて、何のために、警察というものが存在してるんだろう」
そう思った。
その件を報告するため、再び役所へ戻り、相談員に
「警察からの許可は降りませんでした」
と伝えると、
「警察の指示に従ってください」
と言われ、最初から最後まで冷たい対応だった。
「こいつとは、もう2度と会うことはない」
と思ったから、私はこの相談員に
「あなたはどうして、この仕事をしてるんですか?」
「相談員って名乗る割には、人に暴言ばかり吐いて、親子関係が円満な自分の価値観だけで突っ返してくる」
「もし、やりたくないのに、この仕事してるなら、とっとと辞めた方がいい」
「そもそも暴言吐く時点で、あなたには、この仕事向いてねぇんだよ」
そう『ガツン』と言うと、その瞬間、相談員は少し面喰らったような表情をした。
私が何か言い返してくるとは思っていなかったのだろう。
その顔を見て、私は心の中で
「言い返すことができた!」
と、静かにガッツポーズをしていたのでした。




