第42話 夢のかたちを借りて私は家族と距離を取った
このような家庭環境で育った私は、反抗期に突入した頃には、家にいるのが窮屈で、
「家出して、家族から解放されたい」
と強く思うようになった。
姉はファッションセンスに強いこだわりがあり、月に1度、都会のデパートへ服を買いに行くのが恒例だった。
そのデパートには、当時私が好きだったブランドも揃っていたから、店員さんに
「すごくお似合いですね」
と言われると、嬉しくてつい欲しくなることもあった。
けれど、母はいつも
「えー、なんかイマイチ」
と言い、自分好みの服を選んできて、母が選んだ服を試着させられては、結局、母が選んだ服を買わされることが多かったから、私が
「いいな」
と思った服でも、母の言葉が頭をよぎり、
「母だったら、どれを選ぶだろう」
「値段はどうだろう」
と気にするようになり、直感で選ぶことができなくなっていった。それは服に限らず、何かを選ぶたびに
「自分の選択が正解なのか?」
と迷うこともあり、
「自分の感覚を信じていいのか?」
と、何度も難しく感じることがあった。
都会へ上京する3日前、私は教会の先生に日頃の相談に乗ってもらっていた。都会に出向く前に、神様からパワーをもらいたくて、先生のいるお寺に泊まりに行った。そのまま新しい家に直行するつもりだったが、母に
「大事な書類をなくしたら、どうするの」
と言われ、結局一度実家に戻ることに。
ただ、その日は用事があり、帰宅が終電近くになってしまったのだが、母から
「帰りが遅い」
と鬼電が入り、
「事前の連絡もなく遅くなるなら、自力で帰ってこい」
と言われ、タクシーで帰ることになった。
母は自分のことになると
「臨機応変に対応しないと」
と言い訳するくせに、私が同じことをするとすぐ逆上する。
こんなことになるなら、
「母が何と言おうと、そのまま都会へ直行しておけば良かった」
と、ものすごく後悔したし、母のせいで、タクシー代も無駄になった。
私が都会へ上京したかった理由は、他にもあった。私は学生の時、不登校気味でほとんど学校に行ってなく、暇つぶし感覚で絵を描いてたら、楽しくて夢中になり、
「イラストレーターになりたい」
と思ってた時期があった。
ただ、現実的に考えると
「夢のまた夢だろうな」
と思っていたから、その気持ちは消えかけてたが、ある時また、暇つぶし感覚で絵を描いてたら、その時の気持ちが芽生え始め、
「イラストレーターのスクールが、都会にしかないから」
という理由をつけて、上京することにした。
両親には
「そんな狭き門の世界、お前がやっていけるわけがない」
と言われ、ネガティブな言葉を浴びせられたが、その時は
「イラストレーターになりたい」
という気持ちが勝ってたし、もう成人してたから、
「親の言うことをちゃんと聞くいい子ちゃんでいる必要はない」
と強く思ったし、私の意思は揺るがなかった。
ただ、今振り返ると、本当にイラストレーターになりたかったのではなく、親と物理的に距離を取りたくて、
「イラストレーターのスクールに通いたい」
という口実を作っただけだったのかもしれない。
最初は『叶わない夢』だと思ってたからこそ、純粋に楽しかったけど、1年くらい経った頃、
「なんか違うかも」
という違和感が芽生え、イラストレーターになるという夢は、静かに断念していった。
そして、ふと気づいた。私が本当に欲しかったのは、『夢』ではなく『距離』だったのかもしれない。
今まで気づいてこなかっただけで、きっとそうだったんだろうなって、思えるようになったのでした。




