表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話「宴のあとに残る薬」

王都の夜は、ろうそくの光で揺れる影とともに、静かに冷えていく。

今日は、近隣の貴族邸での依頼があった。宴の席で急死した令嬢――表向きは急な病死とされているが、私の観察眼はそう単純には信じない。


薬房から持参した小瓶を揺らし、色と沈殿の具合を確かめる。中の煎じ薬は、明らかにいつもと違う色合いをしていた。微かに焦げた匂いと、舌の上で感じるわずかな渋み。毒の痕跡だ――その可能性が、頭の中で静かに輪郭を持ち始める。


邸内の廊下は静まり返り、壁には油彩画の重みが圧迫感を与える。主人の目が、私を見つめる。

「綾音様……どうか、私の娘の死に理由を。」

声の震えが嘘を隠せない。私は深呼吸し、観察の集中を切らさない。微かな舌の色、手首の冷たさ、顔色の変化。それらをひとつひとつ拾い上げて、脳内で整理する。


宴席の残り物の中に、異物が混ざっていた。微かに焦げた香り、そして普通とは異なる色。私の手は自然と動く。指先で触れ、匂いを嗅ぎ、味を確認する――小さな違和感は、やはり“意図されたもの”だ。


「……これは、毒の可能性があります」

言葉は小さく、静かに。だが、この瞬間、邸の空気が変わったのを感じた。誰も否定できない。疑念は確実に、現実へと形を変える。


その夜、私は薬師としての職務だけでなく、初めて“推理者”としての役割も担うことになった。小さな薬房での穏やかな日常は、もう目の前の硝子瓶の中だけでは完結しない。王都の陰影、権力、そして人の意図が混ざり合う世界に、一歩足を踏み入れたのだ。


雨はまだ、窓の外で静かに降り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ