第4話 助けられた先に
「……っ」
意識が遠のきかけた俺は、誰かに肩を支えられていることに気づいた。
顔を上げると、そこには大きな瞳の少女が覗き込んでいた。背に長い剣を背負い、桃色の髪が夜風に揺れている。
「大丈夫ですか?」
澄んだ声。俺は返事をしようとしたが、口から漏れたのはかすれた声だけだった。
「……あ、あぁ……」
それでも少女は安心したように微笑む。
気を失ったりはしなかったが、体中に痛みが残っていて起き上がるのも一苦労だった。
「ありがとうございます……助けてくれて」
なんとかそれだけ言うと、少女はすぐに眉をひそめた。
「一人でこんな裏路地に入るなんて、無謀すぎますよ! この街は観光客狙いの連中も多いんです。もっと警戒しないと」
……説教?
助けてくれた相手に文句を言うなんて、なんだか妙に真っ直ぐすぎる人だ。
「いや、まぁ……そうなんだけど。俺、事情があって……」
うまく説明できない。
この世界の人間でもなければ、名前や職業を言っても通じるのかすら分からない。俺はしどろもどろになりながら、とにかく「ありがとう」とだけ繰り返した。
少女は首をかしげつつも、それ以上追及はせず、代わりに俺を立たせてくれた。
「服装も珍しいし……異国の方ですよね? もし困っているなら、私のところに来ませんか?」
唐突な申し出に、俺は思わず固まった。
いきなり誘うなんて警戒すべきなのかもしれない。けれど、俺には金も宿もない。今夜を越せるかすら怪しい状況だ。
「……助かります。正直、行くあてがなくて」
俺が答えると、少女はぱっと笑顔を見せた。
その笑顔は年相応で、どこか子どもっぽい。背中の剣と堂々とした態度のせいで大人びて見えたが、よく見ればまだ若いのだろう。
俺は彼女の隣を歩きながら、賑やかな通りを抜けていく。
香辛料の匂いが漂い、酒場からは歌声と笑い声。けれど、彼女と並んで歩いていると、不安よりも少し安心感が勝っていた。
「ところで……」
ふと視線をやると、少女の背にある大きな剣が目に入った。
細身の体に不釣り合いなほどの武器だ。
「その剣……」
何のために、と聞こうとした瞬間――
「着きました!」
少女の声に遮られ、前を見る。
通りを外れた先に立っていたのは、木造の古びた建物だった。看板は色あせ、窓もところどころ割れている。華やかさはないが、不思議と温かみを感じる佇まい。
「ここ、ですか?」
俺が問うと、少女は胸を張って答えた。
「はい! 私が所属する冒険者ギルドです。よかったら今日はここに泊まってください!」
冒険者――。
彼女の正体を知った瞬間、俺の胸に小さな驚きと期待が灯った。




