第3話 出会いの刃
「それでは異国の人、良い旅を!」
オタクさんと別れを告げ酒場を出ると、外はすっかり夕闇に包まれていた。
昼間の熱気を残したかのような石畳は、ほんのりと温かさを帯びている。
街の通りは、香辛料の匂いが混じり合い、屋台からは焼き肉の煙が立ちのぼり、賑やかな声が飛び交っていた。
――ここは、本当に別の世界なんだな。
異国の祭りに迷い込んだような喧騒の中で、俺だけが場違いに立ち尽くしていた。
人々は笑い、買い物を楽しみ、歌を口ずさみながら歩いていく。
けれど、そこに俺の居場所はない。
「……そもそも、ここでどうやって生きていけばいいんだ」
思わず、独り言が漏れた。
金もなければ、住む場所もない。
腹も減った。せめて何か食おうと屋台に近づいたが、差し出された硬貨は見たこともない模様で、価値も分からない。
さらに聞けば、串焼き一本が銀貨一枚。どうやらこの世界の物価は、俺の財布事情に容赦ないらしい。
「……完全に詰んでるな」
苦笑して、空腹のまま通りを歩いた。
華やかな光景はどこか遠い。胸の中にあるのは、不安と孤独だけだった。
そんな時だった。
「おい、兄ちゃん」
後ろから声をかけられ、振り返る。
そこには三人組の男たち。皮の鎧を着て、薄汚れた笑みを浮かべている。
「珍しい格好してんな。観光客か?」
「いや……」
曖昧に答えると、男たちは顔を見合わせ、にやりと笑った。
「財布の中、見せてもらおうか?」
「いや、金なんて持ってない」
「はは、冗談きついな。こんなところ歩いてんだから、ちょっとくらいあるだろ?」
そのまま腕をつかまれ、狭い裏路地に引き込まれる。
「やめろっ!」
必死に振りほどこうとするが、力では勝てるはずもない。
殴られ、蹴られ、石畳に倒れ込む。
――クソッ……! 何もできないのか。
視界が揺れ、血の味が広がる。
絶望しかけたその時――
「なにやってるんですか!」
澄んだ声が響いた。
振り返ると、路地の入口に少女が立っていた。
長い桃色の髪を後ろでまとめ、背には剣。
返事を待たず、迷わずチンピラたちに向かって駆け出していく。
「うるせぇ! 関係ねぇだろ!」
「関係あります!」
鋭い一閃。
男たちは反撃する間もなく、次々と地面に転がった。
彼らは呻き声を上げ、慌てて逃げ去っていく。
残されたのは、ボロボロに倒れた俺と、剣を手にした少女。
「大丈夫ですか?」
差し出された小さな手が、夕闇に浮かんで見えた。
腫れたまぶたをかろうじて開けると、そこに立っていたのは――
凛とした瞳を持つ、一人の少女だった。




