第20話 さすらいの吟遊詩人
祭りの舞台へ向けて、俺たちは少しずつ準備を進めていた。
酒場の女将に相談したり、広場の様子を見に行ったり……。だが、どうにも胸の中のもやが晴れない。
(……このままでいいのか?)
リアナの舞は圧倒的だ。酒場で証明されたように、観客を黙らせ、熱狂させるだけの力がある。
だが、祭りは規模が違う。街の目玉に並ぶ催しだ。
リアナ一人の舞で十分なのか。もっと印象的な出し物を用意すべきではないか――その思考が頭の中でぐるぐる回っていた。
そんな折、サクラは依頼を受けて街の外に出かけていた。
俺はといえば、酒場での仕事をこなしながら、休憩時間にはいつもの水晶に映るダンジョンの光景をぼんやりと眺めていた。
石壁に差し込む青白い光、奥でうごめく影。
(……いずれは、必ずここに挑まなきゃならない)
その映像を見ていると、舞台のことも忘れるほど胸がざわつくのだった。
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その頃、サクラは依頼を終え、馬車に揺られて街へ戻っていた。
夕方の道、緩やかな丘を越える途中、一人の若い男が道端に立っているのを見つける。
「すまない! もしよければ、街まで乗せていってもらえないかな?」
楽器らしき袋を背負った、どこか飄々とした雰囲気の青年だった。
サクラは少し迷ったが、断る理由もなく頷いた。
「ありがとうございます! ではお礼に――一曲、どうかな?」
彼は背からリュートを取り出し、軽く弦を弾いた。
次の瞬間、馬車の中に透き通るような歌声が広がる。
風のように軽やかで、どこか懐かしく、心を温める不思議な響きだった。
「……すごい」
サクラは思わず呟いていた。
青年はにっこり笑って言う。
「僕はフェリクス。さすらいの吟遊詩人ってやつさ。君みたいな観客がいるなら、旅も悪くない」
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街に到着したとき、サクラは偶然、仕事を終えたプロデューサーと鉢合わせた。
「あ、プロデューサーさん!」
サクラが駆け寄り、横に立つ青年を紹介する。
「この人、馬車で一緒になって……フェリクスさんっていう吟遊詩人なんです」
プロデューサーはフェリクスをじっと見た。
派手な羽根飾りの帽子、飄々とした笑み、背に負った楽器。
一瞬、訝しむように目を細める。
だが次の瞬間、プロデューサーの頭の中に電撃のようにひらめきが走った。
(……そうか。これなら……!)
思わず口元に笑みが浮かぶ。
「……面白いかもしれない」
祭りに向けた街のざわめきが、遠くから響いていた。




