第2話 ダンジョンとアイドル
観客の歓声は、地鳴りのように響いていた。
熱狂する人々の視線の先には、巨大なモニター。そこに映るのは、歌いながら剣を振るい、魔物を薙ぎ倒す少女たちの姿だった。
……これは、本当に夢じゃないのか。
現実感を失ったまま呆然と見上げていると、隣から声が飛んできた。
「おや? 初めて見る顔ですな!」
振り返ると、分厚い眼鏡に首から双眼鏡、手にはカラフルなペンライトを握りしめた男が立っていた。いかにも“オタクです”と自己紹介しているような格好だ。
「え、あ、俺……」
「なるほど! その珍しい服装、さては異国の人ですな! いやぁ、世界は広い広い!」
完全に勘違いされていた。だが、ちょうどいい。今の俺には、ここが何の世界なのか知る必要があった。
「……まぁ、そんなところだ。あの戦ってる人たち、何なんだ?」
俺がモニターを指さすと、眼鏡の男は目を輝かせた。
「おっと! それを知らないなんて、人生の九割損してますぞ!」
「そ、そんなにか……?」
「いいですか、説明しますね! この世界には《ダンジョン》が各地に存在しましてね。モンスターがうようよしていて、危険度も財宝もピンキリ。そこに挑むのが《冒険者》なんです!」
おお……一気にファンタジー用語が出てきたな。
「じゃあ、あのモニターに映ってるのは冒険者か?」
「そう! ただし普通の冒険者じゃありません!」
眼鏡男はペンライトを掲げ、声を張り上げる。
「歌うことでダンジョンから不思議な力を受け取り、仲間に力を与える特別な冒険者――人々は敬意を込めて《ダンジョル》と呼びます!」
ダンジョル……?
「歌……を歌って戦う?」
「そうですとも! ただの剣士や魔法使いじゃダメなんです! 歌うことで力を得て、人々を惹きつけ仲間を鼓舞し、観客に夢を見せる――そういう存在こそがダンジョルなんです!」
その熱弁に、思わず俺は言葉を失った。
歌で人を惹きつけ、夢を与える存在……それは、まるで。
「……アイドル、みたいだな」
「おおっ!? 異国でもそういう文化があるんですか!」
眼鏡の男は食いついてきた。
「彼女たちはただ強いだけじゃない。心を震わせ、希望を見せてくれるんです! 私の推しはなんといっても、剣と歌の二刀流! 歌声は天上の清らかさ、戦いぶりは猛き獅子! ああ、尊いでござる……!」
両手を胸の前で組み、うっとりと語る姿は……いや、すごい濃いな、この人。
けど、その気持ちは少しわかる。
俺もかつて、同じように心を奪われたから。
幼い頃、テレビの中で歌うアイドルに憧れ、大人になってプロデューサーを志した。夢を見せる存在を支えるために。
――でも、その夢は壊れてしまった。
……だけど。
今、目の前に広がる光景は、あの頃の感情を呼び覚ましてくる。
「……ここなら、俺も……」
かすかに呟いたその時、モニターの中でダンジョルが決め技を披露した。
光と歌声が交差し、巨大なモンスターが爆ぜるように消え去る。
観客たちは総立ちになり、割れんばかりの歓声を上げた。
その熱気の中、俺の胸にもまた、熱いものが灯っていた。




