第17話 舞台に向けて
翌朝。
俺はいつものように酒場へ顔を出したが、女将の第一声は冷たかった。
「舞台を使わせてやるのはいいけどね、準備は全部あんたがやりな。店も忙しいから誰も手伝っちゃくれないよ」
ぐさりと刺さる言葉に、俺は肩をすくめて返す。
「わかってますよ。舞台を借してもらえるんですから」
こうして俺の“舞台準備の日々”が始まった。
ほこりを払って、板を磨き、ギシギシ鳴る床を補強する。
手を動かしながら、頭の中ではリアナの踊る姿を思い浮かべる。
(どうすれば、あの踊りを一番映える形で見せられるだろうか……)
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日中の酒場は仕込みと常連の昼飯で慌ただしい。
俺は料理を運びながらも、ことあるごとに客へ声をかけていった。
「実は、七日後にここで踊り子の舞台をやるんですよ」
皿を受け取った冒険者が目を丸くする。
「おいおい、本当か? 酒場で舞台なんて久しぶりだな」
「へぇ、そりゃ面白そうじゃないか」
そんな会話が少しずつ広まり、酒場の空気は日に日にざわつきを増していった。
空いた時間を見つけては、照明用のランプを配置し直す。
舞台らしい雰囲気を作るには、小さな工夫の積み重ねが必要だった。
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一方その頃――。
裏の練習場では、サクラがリアナに踊りを叩き込まれていた。
「歌と踊りを同時にやるには、呼吸を合わせること。力を入れすぎないで」
リアナの言葉に従い、サクラは歌声を響かせながら動きを試す。
だがすぐに息が乱れ、声が途切れた。
「はぁ……はぁ……ごめんなさい……!」
「謝る必要はないわ。まだ始まったばかりよ」
リアナは淡々と告げる。
その厳しさの裏に、わずかな期待の色が見え隠れしていた。
サクラはちらりと入り口の方を見やる。
(……プロデューサー、今日は来ないんだ)
少し寂しさが胸をよぎる。だが、それでもサクラは拳を握り直し、視線をまっすぐに戻した。
「もう一度お願いします!」
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夜。
一日の仕事を終えた俺は、酒場の奥に立つ舞台を見渡した。
掃除を終えた木板は、灯りを受けて艶やかに光っている。
「……よし」
俺は心の中でつぶやく。
――あとは当日、リアナと観客がこの場を完成させてくれる。
期待と緊張を抱えながら、その夜は深い眠りについた。
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そして、舞台当日の朝。
夜が明けると、酒場の前には人々が集まり始め、ざわめきが街角まで広がっていた。
俺は深呼吸をして、自分に言い聞かせる。
「いよいよ始まるな……」
その言葉が、今日という一日の幕開けを告げていた。




