第16話 舞台探し
朝のギルド。
まだ人もまばらな時間帯に、俺はサクラを呼び寄せた。隣には、昨日出会った踊り子――リアナが立っている。
「こちらが俺の弟子、サクラだ」
「は、はじめまして! サクラです!」
緊張したように背筋を伸ばすサクラに、リアナは細い目を少し細め、涼しげに頷いた。
「……素直そうな子ね」
それ以上は言わず、すぐに視線を逸らす。その大人びた雰囲気にサクラは戸惑ったように笑い、やがて依頼の時間だとギルドを後にした。
「じゃあ、いってきます!」
「おう、気をつけろよ」
見送ったあと、俺はリアナのほうへ向き直る。
「……さて、舞台を探さなきゃな」
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昼下がり。
俺は街を歩き回りながら舞台になりそうな場所を探したが、なかなか適当な場所は見つからない。人通りは多くても、ただの広場では観客を留めることができないし、貸しホールのような場所は金がかかりすぎる。
「……どうするか」
腕を組んで考えていたとき、ふと脳裏に浮かんだ。
(待てよ……酒場だ。あそこにステージがあったじゃないか)
冒険者たちで賑わうあの場所なら、観客はいくらでも集まる。何より――「歌や踊りの舞台」としての土台が、すでにある。
「決まりだな」
俺はリアナに声をかけ、夜に来てくれるよう約束を取り付けた。
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夕方、仕事の時間の前に酒場に顔を出す。
まだ開店準備中で、女将が棚を整えていた。
「新入り、どうしたい。今日は早いね」
「女将さん、お願いがあるんです」
俺は舞台を貸してほしいと切り出した。女将は怪訝そうに眉をひそめる。
「舞台? あんたが使うのかい?」
「俺じゃなく、踊り子にだ。観客を集めるために、ここで舞わせたい」
しばらく睨まれたあと、女将はふうと息を吐いた。
「……あんたが責任を持つっていうなら、考えてやらなくもないよ」
「ありがとうございます!」
小さな突破口が開けた。
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夜。
客が入り始めた酒場に、リアナが現れた。
いつもの舞台衣装ではなく、街歩き用の簡素な服装だが、それでも周囲の視線を引き寄せていた。
「舞台は用意できた。……あれだ」
俺が示す先、酒場の奥にある壇上を見たリアナは目を細め、そして観客席をざっと眺めて肩をすくめた。
「ほとんど酒とライブ目当ての客ばかりじゃない。こんなところで、私の踊りが受け入れられるの?」
俺はにやりと笑った。
「それを惹きつけるのが、あんたの踊りだろ?」
挑むように言うと、リアナは一瞬きょとんとし、それから小さく笑った。
「……言ってくれるじゃない」
細い指で髪を払うと、彼女は壇上を見つめ直した。
「いいわ。その舞台、使わせてもらう」
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その後、改めて女将に話を通すと、七日後に舞台を貸してもらえることが決まった。
「七日後……最初の舞台だ」
胸の奥で静かに呟く。
それはサクラのための新たな一歩でもあった。




