第15話 トレーナーへの条件
踊り子の演舞が終わると、街角に拍手と歓声が渦を巻いた。
軽やかな身のこなしで一礼した彼女は、裾を翻し、人混みの中へと消えようとする。
「ま、待ってくれ!」
俺は慌てて人の波をかき分け、彼女の背中を追いかけた。
振り返った踊り子は、怪訝そうに俺を見つめる。
「……何か御用ですか?」
その視線に気圧されそうになりながらも、俺は一歩前へ踏み出し、深く頭を下げた。
「弟子に、踊りを教えてほしい!」
踊り子の眉がぴくりと跳ね上がる。
観客の冷やかしではないと気づいたのか、真剣な瞳で俺を見据えた。
「冒険者でもなさそうなあなたが……なぜ?」
「弟子は冒険者だ。けど、それだけじゃない。“ダンジョル”を目指してるんだ」
「……ダンジョル?」
首を傾げる踊り子に、俺はかつて見た映像――歌で仲間を強化する姿、そして自分が追い求めてきたアイドル像を重ねながら説明した。
戦いの中で歌い、踊る。冒険とアイドル、その両立を目指す存在のことだと。
話を聞き終えた踊り子はしばらく黙り込んだ。やがて、唇に小さな笑みを浮かべる。
「面白い話ですね。……いいでしょう。ただし条件があります」
「条件?」
「この街に来たばかりで、私はまだ無名です。教える代わりに――私の踊りの舞台を開いてください。観客を集め、私をこの街に知らしめる舞台を」
舞台を――開く?
一瞬驚いたが、すぐに胸が高鳴る。
舞台を運営する環境作り。それは俺がプロデューサーとして、この異世界でいつかやらねばならないと考えていたこと。むしろ願ってもない機会だった。
「……分かった。必ず舞台を用意する。だから、頼む!」
俺が力強く答えると、踊り子は静かに頷いた。
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一方その頃。
サクラは依頼を終え、街へ戻る道を歩いていた。
収穫した薬草の香りがふわりと漂う中、彼女の表情は少し曇っている。
「今日の特訓……全然上手くできなかったな」
歌いながら動く練習。ぎこちなく、すぐ息が切れ、歌も途切れ途切れになる。
悔しさが胸に残っている。けれど――。
「でも、もっと……できるようになりたい」
小さく拳を握るサクラの瞳には、確かな光が宿っていた。
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夜、ギルド。
俺が扉を開けると、そこにはサクラが待っていた。
「おかえりなさい! 今日もお疲れさまでした!」
「ああ。……実はな、トレーナー候補を見つけた」
「えっ、本当ですか!?」
驚きに目を丸くしたサクラ。次いで少し不安そうに口を結ぶ。
「……どんな人なんでしょう。会ってみたいです」
「ああ、きっと力になってくれる。だから準備を始めよう」
二人は顔を見合わせ、小さく頷き合う。
新たな舞台の幕開けを予感しながら――夜は静かに更けていった。




