第13話 歌わない理由
翌朝。
ギルドの扉を開けると、すでにサクラの姿があった。窓辺で光を受けながらノートを広げ、何かを書きつけている。
その横顔を見た瞬間、俺の胸に昨夜の映像がよぎった。――歌わずに苦戦していたサクラの姿。
「おはようございます!」
気づいたサクラが、ぱっと笑顔を向けてくる。
俺はその笑顔に応えつつも、どうしても気になることを口にした。
「……なあ、サクラ。昨日、ライブ映像でお前の戦闘を観たんだが」
サクラの肩がピクリと震える。
「……どうして歌わなかったんだ?」
問いかけた瞬間、サクラの表情が固まる。
唇が小さく震え、視線が泳ぐ。やがて、ぽつりと呟いた。
「実は……私、歌えなくて」
思わず言葉を失った。
だがサクラはすぐに慌てて首を振る。
「ち、違うんです! 歌そのものが歌えないわけじゃないんです。ただ……戦いながら歌うのが、できなくて」
俯きながら、サクラは言葉をつないだ。
「歌えばダンジョンから力をもらえるのは、私も分かってます。でも、戦いながらだと……息が続かなくなって、リズムが崩れて、歌声が途切れちゃうんです。気づいたら、歌も剣も中途半端になって……」
そこで言葉を切り、申し訳なさそうにうつむいた。
「私……やっぱり向いてないのかもしれません」
沈む声。握りしめた拳。
だが、俺は逆に目が冴える思いがした。
「――なるほどな。つまり、戦いながら歌う技術が足りないってことだ」
サクラが驚いたように顔を上げる。
俺は椅子に腰をかけ直し、にやりと笑った。
「よし、決めた。サクラ、まずはお前を“歌って踊れるアイドル”に仕上げる!」
「……えっ!? い、アイドル……踊る!?」
混乱するサクラをよそに、俺は力強く頷いた。
「歌と動きを一体にできれば、戦いの中でも歌える。基礎はアイドルのステージにあるんだ。……これから本格的にプロデュースしてやるから、覚悟しろよ」
サクラは呆然としながらも、どこか期待を帯びた瞳を向けていた。
その姿を見て、俺はさらに笑みを深める。
「ダンジョルへの第一歩だ」
こうして、新たな挑戦が始まろうとしていた。




