第12話 少女への疑念
翌朝。ギルドの扉を押し開けると、すでにサクラの姿があった。
「おはようございます、プロデューサー!」
元気いっぱいに手を振るサクラに、俺は軽く頷きを返す。
「今日はどんな依頼を受けるんだ?」
「薬草の採集と……小型モンスターの素材集めです。ちょっとだけダンジョンに挑戦してきます!」
瞳を輝かせるサクラに、不安と期待が入り混じった気持ちになる。
「気をつけろよ。俺は今日も酒場だ」
「はい! お互い頑張りましょう!」
軽やかに駆け出していく彼女を見送り、俺も足を向ける。
昨日に続いて、あの酒場での仕事が待っていた。
仕事の服に着替えてから開店前の掃除をしていると、昨日は気付かなかった酒場の奥の壇上に目が留まった。
まるで舞台のような広さと高さがある。
「女将さん、あれは?」
尋ねると、女将は手を止めて懐かしむように目を細めた。
「あぁ、あれかい。昔はね、ダンジョルたちがそこで歌って踊ってたんだよ。あんたも名前は知ってるだろう、“銀翼の歌姫”なんかはここから始まったのさ」
「……ここで」
思わず壇上を見つめる。
女将は肩を竦めるように笑った。
「けど、今じゃそんな華やかな時代は過ぎちまった。残ってるのは、酒をあおる連中とダンジョンの映像目当てのお客ばっかさね」
その言葉に、胸の奥がざわついた。
埃を払う手を動かしながら、俺は黙ってステージを見上げる。
いつか――ここでサクラが歌う姿を見てみたい。そんな想像が、自然と浮かんでいた。
開店と同時に、酒場はいつもの喧噪に包まれた。
酔客の笑い声、グラスがぶつかる音、そして壁一面に映し出されるダンジョンのライブ映像。
休憩時間、俺は自然とその映像に目をやっていた。
そこには――サクラがいた。
「……!」
小型モンスターと対峙する彼女は、落ち着いた動きで応戦している。
その姿は決して悪くない。剣を振るい、薬草を摘み取りながら戦いをこなしていく。
だが――歌っていない。
(どうして歌わないんだ……?)
ダンジョルを目指す彼女なら、歌で力を引き出そうとするはずだ。
俺はもどかしい気持ちを抱えながら、映像を見つめる。
その時、奥から女将の声が飛んだ。
「おい、休憩は終わりだよ! 手を止めてないで働きな!」
「は、はい!」
慌てて仕事に戻るが、気持ちはどこか上の空だった。
皿を運びながら、ふと映像を横目に見ると――サクラの表情が固まっている。
中型モンスターが現れていた。
「……ッ!」
明らかに動きが鈍り、押され始めるサクラ。
胸がざわつく。なんで歌わないんだ。なんで力を借りようとしないんだ。
拳を握りしめた瞬間、別のパーティーが映像に映り込み、彼女の加勢に入った。
サクラはなんとかその場を凌ぎ、画面は別の冒険者の映像へと切り替わる。
「……助かったな」
胸の奥に安堵が広がる。だが同時に、納得のいかない思いも残っていた。
その後は怒涛の忙しさに追われ、気付けば夜になっていた。
仕事を終え、ふらつく足取りでギルドへと帰る。
しかし――そこにサクラの姿はなかった。
一瞬、不安が胸をかすめる。だが、ソファの上に一枚の紙が置かれているのに気付いた。
『また明日来ます』
丸みのある文字に、ふっと笑みが零れる。
「……明日、ちゃんと聞かせてもらうからな。どうして歌わなかったのか」
そう心に決めながら横になれば、すぐに眠気が押し寄せてきた。
今日もまた、慌ただしい一日が終わる。
サクラの成長を思い、未来の可能性を描きながら、俺は静かに瞼を閉じた。




