表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

第12話 少女への疑念

 翌朝。ギルドの扉を押し開けると、すでにサクラの姿があった。

「おはようございます、プロデューサー!」

 元気いっぱいに手を振るサクラに、俺は軽く頷きを返す。


「今日はどんな依頼を受けるんだ?」

「薬草の採集と……小型モンスターの素材集めです。ちょっとだけダンジョンに挑戦してきます!」

 瞳を輝かせるサクラに、不安と期待が入り混じった気持ちになる。

「気をつけろよ。俺は今日も酒場だ」

「はい! お互い頑張りましょう!」


 軽やかに駆け出していく彼女を見送り、俺も足を向ける。

 昨日に続いて、あの酒場での仕事が待っていた。


 仕事の服に着替えてから開店前の掃除をしていると、昨日は気付かなかった酒場の奥の壇上に目が留まった。

 まるで舞台のような広さと高さがある。


「女将さん、あれは?」

 尋ねると、女将は手を止めて懐かしむように目を細めた。


「あぁ、あれかい。昔はね、ダンジョルたちがそこで歌って踊ってたんだよ。あんたも名前は知ってるだろう、“銀翼の歌姫”なんかはここから始まったのさ」

「……ここで」

 思わず壇上を見つめる。

 女将は肩を竦めるように笑った。

「けど、今じゃそんな華やかな時代は過ぎちまった。残ってるのは、酒をあおる連中とダンジョンの映像目当てのお客ばっかさね」


 その言葉に、胸の奥がざわついた。

 埃を払う手を動かしながら、俺は黙ってステージを見上げる。

 いつか――ここでサクラが歌う姿を見てみたい。そんな想像が、自然と浮かんでいた。


 開店と同時に、酒場はいつもの喧噪に包まれた。

 酔客の笑い声、グラスがぶつかる音、そして壁一面に映し出されるダンジョンのライブ映像。


 休憩時間、俺は自然とその映像に目をやっていた。

 そこには――サクラがいた。


「……!」

 小型モンスターと対峙する彼女は、落ち着いた動きで応戦している。

 その姿は決して悪くない。剣を振るい、薬草を摘み取りながら戦いをこなしていく。

 だが――歌っていない。


(どうして歌わないんだ……?)

 ダンジョルを目指す彼女なら、歌で力を引き出そうとするはずだ。

 俺はもどかしい気持ちを抱えながら、映像を見つめる。


 その時、奥から女将の声が飛んだ。

「おい、休憩は終わりだよ! 手を止めてないで働きな!」

「は、はい!」


 慌てて仕事に戻るが、気持ちはどこか上の空だった。

 皿を運びながら、ふと映像を横目に見ると――サクラの表情が固まっている。

 中型モンスターが現れていた。


「……ッ!」

 明らかに動きが鈍り、押され始めるサクラ。

 胸がざわつく。なんで歌わないんだ。なんで力を借りようとしないんだ。


 拳を握りしめた瞬間、別のパーティーが映像に映り込み、彼女の加勢に入った。

 サクラはなんとかその場を凌ぎ、画面は別の冒険者の映像へと切り替わる。


「……助かったな」

 胸の奥に安堵が広がる。だが同時に、納得のいかない思いも残っていた。


 その後は怒涛の忙しさに追われ、気付けば夜になっていた。

 仕事を終え、ふらつく足取りでギルドへと帰る。


 しかし――そこにサクラの姿はなかった。

 一瞬、不安が胸をかすめる。だが、ソファの上に一枚の紙が置かれているのに気付いた。


『また明日来ます』


 丸みのある文字に、ふっと笑みが零れる。

「……明日、ちゃんと聞かせてもらうからな。どうして歌わなかったのか」


 そう心に決めながら横になれば、すぐに眠気が押し寄せてきた。

 今日もまた、慌ただしい一日が終わる。

 サクラの成長を思い、未来の可能性を描きながら、俺は静かに瞼を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ