第10話 ダンジョンの冒険者たち
酒場の喧騒が少し落ち着いた頃、女将が言った。
「新入り、休憩にしな。どうせなら見ときな、あんたの好きそうなもんが映ってるよ」
カウンター奥の大きな水晶板――冒険者たちの戦いを中継する魔法の映像装置だ。
俺はジョッキの影に腰を下ろし、息を整えながら視線を向ける。
映っていたのは、見知らぬ冒険者たち。軽快に立ち回る盗賊、巨大な盾で仲間を守る騎士、後衛で呪文を紡ぐ魔導士。
まるで教科書に載るようなバランスの取れたパーティーが、次々とモンスターを倒していく。
(なるほど……世の中にはこんな実力者たちがごろごろいるのか)
飲みかけの水を口に含みながら、自然と息を呑む。
俺の隣でも冒険者たちが歓声を上げ、情報を交換している。
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一方その頃――。
サクラは背負った荷物を最後の目的地に届け終え、深く息を吐いていた。
依頼主の商人が破顔する。
「いやあ、助かったよ! 本当は誰もやりたがらない地味な運搬依頼なのに、最後まで泣き言も言わずに運んでくれて」
仲間の運搬業者たちも腕を組み、しげしげとサクラを見やった。
「正直、最初は足手まといになると思ったんだがな」
「すまなかったな。よく頑張った。これなら次の依頼も任せられる」
サクラは疲れた笑みを浮かべながらも、胸を張って頭を下げる。
「ありがとうございました! またよろしくお願いします!」
その瞳は、最初にギルドで見たときよりも、ずっと強く輝いていた。
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酒場の映像は切り替わり、ざわつきがさらに大きくなる。
「おっ、有名どころが来たぞ!」
「“銀翼の歌姫”のAランクパーティーだ!」
水晶板に映し出されたのは、有名どころの冒険者パーティーらしい。
そして、その後衛に立つのは銀髪の女性冒険者。
戦士たちが激しく斬り結ぶ最中、彼女が一歩前に出る。
澄んだ声が響いた瞬間、前線の仲間たちの動きがまるで別人のように変わった。
ーーーダンジョルだ。
剣が鋭さを増し、盾は鉄壁となり、魔法の詠唱は一気に速度を増す。
(……これが、ダンジョンでの歌の力か)
アイドルのステージを思わせる光景に、俺は釘付けになった。
歌が流れ、その輝きが増す。その姿は、俺のかつての夢と重なって見えた。
だが――。
「新入り! 休憩は終わりだよ!」
女将の声が響き、映像は視界から遮られた。
「はいっ!」
慌てて立ち上がり、再び皿を抱えて走り回る。
グラスが飛ぶように空き、料理の注文が次々と入る。
冒険者たちの笑い声と、遠くの映像装置から響く戦いの音が交錯する中で、酒場は再び嵐のような忙しさに包まれていた。
俺の一日はまだ終わらない――。




