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憂色の中  作者: あんかけ
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瀬尾がみちかに飽き始めて連絡がぽつぽつと遅れていくようになったのは、彼が社内の女性と付き合うようになってからだった。相手の名前は、梅宮夏菜子だった。梅宮は営業部に配属された新人で、彼が教育係になって親密になったという噂を聞いた。

みちかは内心とても喜び、これで苦痛な毎日が終わることを喜んだ。瀬尾と会うことがなくなり、再び、みちかの不特定多数のセックスが再開された。相変わらず、仕事量は多く、みちかは残業をしなければ仕事が終わらない状態だったが、彼女は瀬尾から解放されて清々しい気分で毎日を送っていた。


瀬尾が新人の梅宮と付き合っていると言う噂を聞いてから、1週間後ぐらいの頃だった。


休憩時間に外出して、珍しくコンビニに行ってご飯でも買おうと思った時だった。笑顔の瀬尾と華奢なスラッとした女性が一緒に外出するところを見た。瀬尾は全くみちかに気づくことがなく、一心にキラキラとした瞳で若い女性と会話していた。彼女が梅宮夏菜子だと気付いたときにはもうその姿は消えていた。

彼らは二人とも絵に描いたような美人で、はつらつとした生命力に満ち満ちていた。その姿には希望がありありと開かれていて、みちかの未来よりずっと明るいものが輝いているようだった。みちかは自分の気持ちがどんどん滅入るのを感じた。自分には真顔で接する瀬尾の態度は、あからさまにみちかを見下しているようだった。それが、梅宮に注がれた視線は快活なもので幸せそのもののように見えた。みちかはそのあまりにも違う態度に瀬尾と一緒にいたとしても幸せではないと思ってしまった。

コンビニでおにぎりを買ってきて、デスクで食べていると、外食して戻ってきた上司の三重島が爪楊枝で歯茎に入ったかすをとりながら、話しかけてきた。


「みちか、お前瀬尾と付き合ってねぇのか?

お前この前まで一緒にいたよな?」


三重島がきっと二人の姿を見かけたのだろう。


「付き合ってませんよ。あれはたまたまです」


「あいつ、最近入った新人の子と仲いいんだよな。もうあれはくっつくだろうな。お前、いいのか?」


「いいのかって別に付き合ってませんし」


「あいつって仕事ができるし、コミュ力高いからいい旦那になると思ってたんだけどな。かわいそうなお前とくっつけば、お前仕事しなくても済んだかも知んねぇのに」


まただ。そんなに自分はかわいそうに見えるのだろうか。


「同情はやめてください。けっこう傷つくんですよ」


三重島はあっけらかんとした口調で言う。


「お前のあんなとこ見たら、みんなかわいそうって思うよ」


三重島がみちかの自傷跡のことを言っているのは明らかだった。


「女は傷物になったら、価値がなくなるからな」


三重島が鋭いことを言って、ギクッとする。みちかはすでに傷物になってしまったから、瀬尾にあのようなぞんざいな扱いをされてしまうのだろうか。傷物だから、自分の未来は明るく見えないのだろうか。それだと、みちかはずっと価値がなくなった人生を生きるしかないようだ。

みちかは買ってきた塩むすびをぱくりと食べる。塩が適度にかかっていておいしかった。傍らにあった牛乳を飲み込む。クリーミーな塩味を感じた。


「やっぱり営業部の瀬尾さんって、新人さんと付き合ってんすか?」


傍らにいた先輩の萩野が会話に入ってくる。彼は好奇心のあふれた瞳を輝かせ、三重島に尋ねた。


「だと思うぞ。やっぱり若さには勝てねえよ」


「可愛い子ですもんね。スラッとしてて今どきのことというか」


みちかは明らかに出会いがない自分が恥ずかしくなる。彼女は華やかな服に身を包んでいた。あれならたくさんの男性に魅力的にうつるだろう。


「みちか、お前も負けてられねえぞ!まだまだいけんだから、そんな堅苦しい格好やめて、スカートで来いよ。男どもが喜ぶんだから」


「だめですよ…。椿さんが目光らせてますから」


萩野があきれたような口調で言った。椿とはみちかの教育係のクラッシャーな女性先輩だ。


「そんなこと言ってたら、こいつの婚期は遅れるばかりだぞ」


「今はマッチングアプリもあるから大丈夫っすよ。

出会いが広がりましたし、気軽に合えるようになったし」


出会い系サイトもあるしと心のなかで言ってしまう。


「みちか、お前は真面目なやつと結婚したほうが幸せになれる。ぜってー俺みたいなちゃらんぽらんと結婚しちゃだめだ。不幸のどん底に言っちまうからな。あと、イケメンで顔がいい男もだめだ。ああいうやつは簡単に不倫に走るからな」


「清水さん、マジに顔がいい優しい男は辞めたほういいっすよ」


萩野が頷きながらいう。その男の特徴を備えているのは、明らかに瀬尾ではないか。あの男の暴力を振るう前の態度は明らかにそのような態度だった。


「どのような人だといいんですかね」


「そりゃ、優しくて金稼ぎのいい男だ。ブサイクでもそういう男はお前のこと大事にするからな」


「ですね」


2人はどんな男がいいか、まだ話していたが、みちかはどんどんとその言葉をスルーしていった。


「あ!霜月さんいいですよ。顔もいいし、あの人バツイチだけどしっかりしてる人ですしね」


霜月と言われた男性社員は、経理部の人で三十代だった。落ち着いたどっしりとした声と、がっちりとした男性らしい体つきをした人だった。


「あぁ!あいつはいいよな。男でもいいなって思っちゃうもん。あいつは不倫なんかしねぇな。そういうの凄い嫌ってそうだし」


「男性に好かれる男性って感じすもんね。まあ、かなり細かい性格してるみたいですけど」


「みちか!今度お前が霜月と付き合いたいって俺が言ってあげるか?絶対優良案件の男だ。あいつはゲイ疑惑もあるけど、そんなの結婚したらどうでもよくなるさ」


萩野がそれを聞くと爆笑した。みちかは苦々しい顔をして、断る。


「いいですよ…。霜月さんにも悪いですし、関係悪くなると仕事しづらいじゃないですか」


「いい話だと思ったんだけどなあ。お前はああいうやつを狙ったほうがいいぞ」


三重島がニッコリとご機嫌になっていった。みちかは愛想笑いをするしかなかった。



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