【迷宮】第19話 魔牛
ラグドールとオルティナに従って、迷宮の《《仕掛け》》で何度かの転移を試みる。《《何度目か》》の転移で、遺体の傍に近づくことができた。
ラグドールとオルティナは、床や壁の魔法陣を解析するのを優先しているので、遺体を確認するのはわたしの役目になった。
「これは……」
もの凄い力で、胸が押しつぶされていた。おそらく、肋骨はグチャグチャにへし折られているだろう。革鎧を剥ぎ取ってみると、胸には血が滲んだ痣ができていた。
「まさか、魔牛か?」
魔牛の怪力で殴られた遺体……そう思えた。
「この迷宮の何処かに、魔牛がいるわけ?」
わたしの憶測を聞いたオルティナは、腕を組んで考え込む。時折、周囲を見回すような素振りをするが、結局はまた考え込んでしまう。
「迷宮を作っている魔の流れが強いから、それ以外の魔が視え難いのよ。魔牛はいるかも知れないし、いないかも知れない。《《いた》》としても、どこにいるのか判らないわ」
周囲を探る能力に優れているオルティナも、お手上げらしい。城の外でなら感じられた「人の気配」も、中に入ったら魔の流れに掻き消されて探れなくなったそうだ。
「アンタの使い魔は、何か感じてないの?」
言われてノアールを見る。ノアールは、ニッコリと笑い返してきた。
……美味しそうな気配《《だけ》》は感じてるようだ。この場合、オルティナとラグドールには、どうやって返事をしたらいいのだ?
「強力な魔物がいるのは感じてるよ」
「凄いね。どうやって感じてるんだい?」
もう一度ノアールを見る。さっきと同じ笑顔を、わたしに向けている。駄目だな……わたしには説明のしようがない。
結局、オルティナを納得させられないまま、迷宮の探索を続けることになる。意図的に転移を繰り返す中で、いくつかの死体を調べることができた。
同じように殴られて頭を潰された者、怪力で手足を引き千切られた者……。
ラグドールは、城の地図上に死体の場所と状態も書き込んでいる。
「5人分の死体が見つかったことになるが、その全てが怪力で潰されたり、引き裂かれたりしたものだ。魔牛との確証はないが、怪力を行使する魔物と思って間違いなさそうだな」
作製された地図を確認して、もう一つの推測も立てられた。
「これまでの転移は、城の西棟と東棟を行き来しているだけで中央部には、まだ我々は足を踏み入れられていない。既に数十回の転移を繰り返しているのに、だ」
中央部とは、北に面した部分で元々の入り口を石壁で塞いだ場所である。
この仕掛けは、そこへ侵入者を近づけさせないためのものではないか……とラグドールは言う。




