【迷宮】第9話 黒い美人
翌朝。日課にしている剣の素振りをしていると、宿の入り口の方で何やら揉めている声が聞こえた。その声は、乱雑な足音と共に裏庭で剣を振っているわたしの方へ向かって来る。
妙に装飾の豪華な革鎧を着込んだ男達が3人、腰の剣をひけらかして近づいてきた。
「古城のことを聞き回ってるのは、お前らか?」
わたしとノアールが女2人と見て、ニタリと笑って顔を見合わせている。下司っぽい笑いが、悪い人相を更に醜悪にしているな。
「悪いことは言わねえ。古城のことは何も聞かなかったことにして、さっさと町から出て行きな」
何だ……早速、力ずくで解決する連中の標的にされてしまったか?
3人のうち2人は、わたしを左右から挟み撃ちする位置に立つ。残る1人はノアールに近づいて、左腕をねじ上げていた。
「離して下さい。さもないと痛い思いをすることになりますよ」
緊張感のない、暢気な声で警告するノアール。わたしは、自分を囲んでいる2人より、ノアールの左腕を掴んで《《しまった》》男が気になった。
「おうよ、構わないぜ。やれるもんなら……」
男の言葉が終わらないうちに、ノアールはその手を振りほどくと逆に男の右腕を捻じ上げていた。
「……!」
ノアールに右腕を捻じ上げられた男の顔色が変わる。ノアールが掴んだ男の手首から先も、少しずつ紫色に変わっていく。
「……は、離せ!」
手首から先が紫色になるに従って、男の顔は血の気を失い逆に青白くなっていく。
「貴男は、妾がお願いしたとき無視したではありませんか。だから、妾も貴男のお願いはききません」
……グギリ
鈍い音が聞こえた。男の目が見開いて、口が大きく開く。引き攣った顔の、その喉の奥から掠れた呻き声が漏れた。
ああ、これは骨が砕けたな。
「ノアール、手を離しな。折れた骨が皮膚を破って突き出ると、血が飛び散るからね。服が汚れるよ」
「はい、わかりました」
ノアールの左手が、男の右腕を離した。男はグニャリと曲がった右腕を抱えるように、その場で蹲る。わたしを襲うつもりだった2人も、口をあんぐりと開けて青白い顔になっていた。
「お仲間を連れて帰りな。早く医者に診せた方がいいんじゃないかい」
「あ……ああ」
意外と2人の男は、素直な返事をして蹲っていた男を抱えて去って行く。定番の「憶えていろ!」の捨て台詞があるかと思ったが、逆に「悪かった」と謝罪の言葉を残していった。
「黒い美人の怖さを思い知ったらしいね」
ノアールは、今起こったことには関心がないようで、緑の服の埃を払っている。




