【迷宮】第6話 魔人との契約
ラグドールが弟子入りしたのは14歳で、オルティナはその時には17歳の姉弟子だったと言う。14歳から30年とすると、ラグドールは44歳か。
ある時点で魔人となったオルティナは歳を取らなくなり、人間のラグドールは順当に年齢を重ねてきたのだろう。
「私が弟子入りして10年を過ぎた頃に、師匠は死去された。それからはオルティナが、私にとって師匠に代わる存在になったよ」
しかし、師匠の後継者として世間からは認められたのは、ラグドールの方だったと言う。
「オルティナが男であれば、間違いなく彼女が師匠の後継者だった」
魔法使いとしての実力では優りながらも、オルティナはラグドールを陰から支える存在となり、そして独自に研究を進めたと言う。
「正直なところ……私の実力では、彼女を手伝うこともできなかったよ」
また、ラグドールの顔に自嘲的な笑みが浮かぶ。
「あー、もう。全然面白くない話!」
オルティナが不機嫌な声を上げた。そして、椅子から立ち上がると勝手に部屋の入り口へ歩き出す。
「アタシ、先に帰ってるから!」
そう言って部屋を出て行ってしまう。ラグドールは、オルティナの背中を見送るとクスリと笑った。
どうやら、あの魔人は昔話が嫌いらしい。ラグドールは、魔人に悪戯をさせないためにワザと「嫌いな昔話」をしたようだ。
オルティナの気配が消えたのを確認したラグドールが、わたしに「ノアールを座らせる」ように言う。
「この娘は、座りたくなったら勝手に座るよ」
わたしの返事にラグドールは、少し怪訝な顔をする。ノアールは、今もわたしの傍に立って、オルティナが座っていた椅子を睨んだままだ。
警戒を解かないノアールを見るラグドールの視線は、少し寂しそうにも見えた。
「彼女が魔族となってから20年になるかな。だが……その間に彼女は、人を誰1人として殺めてはいないよ。そんなことは、私がさせなかった」
「あんたが? どうやって?」
魔物は、その身体を維持するためには魔を吸収し続けなければならない。魔を集めるために人を襲い、恐怖や呪いを撒き散らす。それは、魔人も同じだ。
人を襲わずに、どうやってオルティナは魔を集めてきたと言うのか。
「彼女が魔族となってから、私は魔物を呪符に封じる術だけを極めた」
ラグドールは、わたしの方を向いて言葉を紡ぐ。しかし、その視線はずっと遠くを見ているようだった。
「彼女が魔物と戦い弱らせ、私は弱った魔物を呪符に封じる。そして、呪符に封じた魔を彼女の身体に流し込み糧とするのだ。それが、私と彼女の関係だ」




