【迷宮】第3話 魔導士ラグドール
「私はラグドールと言う。ご覧の通りの魔導士だ」
わたしとノアールが泊まっている宿を訪ねてきた男は、そう名乗った。黒と茶色のローブを纏った金髪で、背もかなり高い。一見若く見えたが、雰囲気は異様な程に落ち着いている。よく見ると、それなりの年配だ。
「そして、これはオルティナ。私と契約している魔族だ」
ラグドールと言う男は「魔族」と言うが、要は魔人である。人を生きたまま依代にした魔物……人としての知恵や記憶を引き継ぎ、人の知識と魔物の魔力でより洗練された魔法が使えるとも言われる。
契約と言うのが、わたしにはわからない。
オルティナと呼ばれた魔人は、赤毛の長い髪をした若い女の姿をしていた。ラグドールと同じ柄のローブを着ている。
「別に、貴女の使い魔を取って喰らうつもりはないよ」
魔導士ラグドールは、そう言って穏やかに笑った。その隣で魔人オルティナは、ノアールを値踏みするかのように頭から爪先まで見回す。
魔導士と魔人……魔の力にどっぷりと浸かる者には、やはりノアールが人外の存在だとわかってしまうらしい。それでも、彼らの目には、ノアールの力は妙に過小評価されて写るようだ。
だが、それは仕方ないことらしい。
「人には、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7色の光しか見えません。だから、それ以外の色で輝く存在があっても、人はそれに気付けないのです」
ノアールが言うには、魔は人のすぐ傍にあるのだが、人には関知できない色をしているそうだ。それにどっぷりと浸かる者が、ようやく関知できる。
「でも……妾の輝く色は、それとも違う色なのです。だから、魔にどっぶりと浸かった者でも、妾の輝きは関知できないのでしょう。彼らが関知できるのは、その片鱗の少しだけの部分だと思います」
過小評価されると言うのは微妙だと思う。侮ってくれるのは、戦う際には有利になる面もあるが、見下した連中に必要以上に絡まれるのではないか?
いや、違うな。捕食する側には、餌の方から寄って来るから好都合なのか!
魔導士ラグドールと魔人オルティナは、特に許しを得るでもなく部屋に入って来て椅子に腰掛けた。
「東の森の古城に興味をお持ちのようだな」
ノアールの美貌を餌にして情報を集めていたから、お見通しと言うわけか。
「そこで相談と言うか取引だ。悪い話ではないと思う」
部屋には椅子は2脚しかないから、わたしとノアールが立つ羽目になっている。目の前に飛び込んできた餌を前にしたノアールに『待て』と制しているわたしの苦労は伝わってないだろうな。




