【片足の騎士】第20話 既視感
辺りに散らばった死体は8体。皆、腰と胴で切断されていた。
「面倒だったので、この辺りの空間を捻って丸ごと引き千切りました」
捻った空間を引き千切れば、そこにあるモノ全てが切り裂かれる。この連中は、何が起こったかも知らぬうちに絶命しただろう。
「あ……ありがとう」
ノアールに礼を言いながら、何とか膝に力を入れて立ち上がる。
……アルミウス
華奢なくせに強かった。一族の中では英雄的な戦士だった。
……わたしを守ると言ってくれた
わたしが盾の乙女でなくなったら、アルミウスの子を産んで育てるものと思っていた。
……ああ、そうか
それで、孤児院のラムンとライセンがやたらと苛ついたんだ。
わたしは、自分で自分に呪いをかけてしまった。その呪いに魔が集まって来るのを、わたしも感じている。
……もし、わたしが魔に飲み込まれたら?
大丈夫、わたしは「嘆きの森のボルガ」のようにはならない。そうなる前に、ノアールがわたしを喰らうはずだ。
「ラゲルナ様、危ないです!」
「え?」
わたしはノアールに突き飛ばされた。膝に力の入らないまま、体勢を崩して無様に尻餅をつく。
「ちょっと! 何を……」
次の瞬間。急に、わたしの顔を照らしていた陽光が何かに遮られて、影になる。
ドオォォォン
目の前を何か大きなモノが落ちてきた。
「痛ーーい」
「……ノアール?」
大人の胴体より太そうな大木だった。ノアールが空間を引き千切った領域に、背の高い太い木が一本だけ紛れていたようだ。
わたしを突き飛ばしたノアールは、その勢いで地面に突っ伏してしまい、その上から大木が倒れてきた。下敷きになったノアールの両足が大木に潰されている。
「……」
潰れて血塗れの両足……左脚の蛇が伸びて、大木を囓って砕いている。多少、身体が動くようになったノアールは、鉤爪で大木を押し返した。
「ものすごく痛かったです」
痛かった……ああ、もう過去形なのだな。
立ち上がって黒のローブの埃を払うノアールの両足は、もう元通りだ。
ゼークトの町からの報奨金を預けた証文が届いたので、金の受取人をラムンに変更して孤児院に送る。
これで町を出られる。
ふと気になったことがあるので、緑の服に着替えようとしている裸のノアールに近づく。そして、ノアールのお尻をつねってみた。
「痛い!」
味覚はないが、痛覚はあるのか?
「痛い……のかい?」
「当たり前です。他人を何だと思ってるんです?」
そう言えば、ノアールと初めて出会ったときにも、こんな会話をしたのだっけ。いや、あの時も左手を斬られて普通にしていたぞ。
Ep 片足の騎士 -終-




