【片足の騎士】第19話 罪悪感という呪い
北の地……冬の終わりを待って行われた戦。その戦も終わり、数多の死体が雪の上に散らばっている。
「……ラゲルナ……悪いな」
俯せで倒れていたアルミウスの首が動いて、その眸が開いた。そして血を吐き出している口元が動いて掠れた声を絞り出した。
「お前の手で……神々の館へ逝かせて欲しい……んだ」
背中に受けた槍傷は右の胸を貫いていた。胸から流れる血が喉から口へ逆流して、息すらできないはずなのに、アルミウスはわたしの名を呼んだのだ。
アルミウスを、この手で神々の館へ逝かせてから……わたしは、戦場で人を殺せなくなってしまった。
それで、北の地を逃げ出した。
わたしは、海賊の剣を取り落とし、膝を地面についてしまっていた。
わたしと対峙していた剣使いは、警戒して一旦距離を取る。
右手にも、膝にも力が入らない。敵が剣を振るう前に、何とか海賊の剣を握らないと……!
海賊の剣に伸ばした右手に、白い靄が渦を巻くように纏わり付いてきた。
仲間を殺したわたしの罪悪感……わたしが、わたし自身にかけてしまった呪いに魔が集まってくる。
『殺せ! 殺せ!』
わたしの中の何かか、それとも集まる魔の声なのか。
わらわらと大勢の人の声が聞こえてきた。森を迂回して来た連中が、やはりいたようだ。首にも力が入らないから、何人いるのか確認できないが、5人か6人は集まっていそうだ。
「急に、どうしたんだ?」
「わからんが、やっちまえ!」
「おうよ」
「これでガルディバ伯からガッポリ報酬が貰えるぜ」
下卑た男どもの声が、わたしの周囲に集まってくる。完全に取り囲まれたようだ。
このままならず者連中に討たれるか、それとも魔に取り込まれるかで諦めかけた時……。
「何だ? テメエ」
わたしに纏わり付いていた白い靄が消えた。何とか身を捩って、後ろに視線を移す。
ノアール!
「後は、妾がゴミ掃除を致します」
黒のローブの前がはだけて、白く丸みのある乳房や腹部が晒されている。しかし、誰もそれを気にする状況ではなかった。ノアールは、鉤爪の右手には御者の首を、左手には神官助手の首を抱えていた。血塗れの人の頭2つを地面に投げ出すと、ノアールは周囲をグルリと一瞥する。
「ラゲルナ様、腰より低い位置に身を伏せていて下さい」
言われた通り、地面に這いつくばった。すると景色が横にズレたように見えた。バチンと何かが弾ける音がして、辺りが白く光る。
……ズサ
……ドン
……バサ
湿った重い音が、辺りに響く。その場にいたならず者達は、胴と腰の辺りで真っ二つに切断され、地面にずり落ちて転がった。




