【片足の騎士】第16話 迎えの馬車
翌朝。剣の素振りの後、一休みしてからノアールと仕立屋に向かう。
新調した右半身を覆うマントは、前のものと寸分違わぬもので、留め紐を通す孔の位置も全く同じ。新しい布地は、まだ色褪せしてないので、鮮やかな緑色だ。右胸の位置に施された赤い花弁の刺繍にノアールは大喜びだった。
冒険者ギルドの建物の前を取ったときに、中の様子を伺ってみる。開きっぱなしの扉から覗いた限り人が疎らな気がした。
これで、特段用もないので宿へ戻ることにする。昨夜の黒パンと野菜の酢漬けが残っているから、昼食は買わないでいい。
宿の女将さんにスープを頼んだら、肉と野菜を牛の乳で煮込んだスープを作ってくれた。黒パンをそれに浸して食べていると、ノアールが緑の服に着替えようとしている。
「今日のお招きは、ノアールを『魔法使い』と思ってのことだろうから、黒のローブにしておきな。魔法使いっぽくなるからね」
「そうですか……残念です」
わたしが着付けてやらないと、右手が鉤爪のノアールは緑の服を着られないからな。不満そうではあるが、おとなしく言うことを聞いてくれる。
ノアールは一旦荷物袋から出した緑の服と新しいマントを、左手で畳んでまた荷物袋に収めた。
「ややこしくなると、新品のマントを血で汚すかも知れないからね」
「それは嫌です」
ノアールとの打ち合わせは、これで十分。
後は、昨日の神官助手が迎えに来るのを待とう。
約束通り、正午を過ぎた頃に、宿の前に馬車が乗り付けられた。馬2頭立て、客車は4人乗り、天蓋までしっかり付いた豪華な馬車だ。
わたしとノアールが乗り込むと、向かい側にダニエルが座った。内装はとても豪華に装飾されて、窓には上等そうな刺繍を施されたカーテンが付けられている。
ノアールは、その刺繍を左手の指で触っている。どうやら刺繍に興味を持ったらしい。
「たくさん色が使われていて見た目は綺麗ですが、手触りが悪いです」
カーテンの刺繍は力加減が安定してないから、手で触れるとゴツゴツする感じだった。マントに施された刺繍の方が丁寧な仕事だ。それはノアールにもわかったようだ。
進行方向に背を向けて座る神官助手は、御者に指示を出すと前方が見える窓にもカーテンを引いた。
「わたし達に頼みたい仕事って何だい?」
「それは司祭さまに、直接お訊き下さい」
「わたし達は、この町の冒険者には登録してないよ。仕事なら、この町の冒険者に割り振るべきじゃないのかね」
「司祭さまの判断です」
この神官助手、話をしたくないのが露骨に伝わってくるな。




