【片足の騎士】第15話 教会の使者
夕方。
宿の裏庭で剣の素振りをしていると、女将さんが「来客だよ」と伝えに来てくれた。
宿の入り口に、教会の祭服を着た男が立っている。年若く少し傲慢そうな男で、金持ちの子息が「下働きや修行を経験せずに」神官助手になった感じだ。
「わたしに用があるのは、アンタかい?」
「はい。私は、この町の教会で神官助手を務めさせて頂いているダニエルと申します。本日は、司祭長さまの使いで参りました」
ダニエルと名乗る男は、一応礼儀正しく頭を下げた。
「教会の司祭長?」
孤児院のラムンを破門させた奴だろうか。益々きな臭い予感がするな。
「司祭長さまは、あなた方お二人に折り入ってお願いがあると申されました。私は、あなた方をお連れするよう言いつかって参りました。ご同行下さいませ」
外に馬車が停まっていた。わざわざ馬車で迎えに来てくれたのか。
「今日はもう暗くなるだろう。どうしてもと言うなら、明日もう一度、明るいうちに来ておくれ」
「お帰りの際も、馬車でお送り致します。お時間は、さしてかかりません」
「宿の夕食の時間なんだよ。勿体ないだろ」
「こちらで夕食は御用意してあります。安宿の食事よりは、マシな物と思います」
ああ言えばこう言う……か。そうやってペラペラと「ああします、こうします」と返事ができるところが逆に怪しい。
「これから出かける気はない。それで不都合なら、他を当たっておくれ」
神官助手ダニエルの顔が苦々しそうに歪んだ。気持ちが顔に出すぎる人間は、使者に使わない方がいいのに。
「承知しました。明日の正午過ぎに、また参ります」
渋々とダニエルは引き下がりる。1人で馬車に戻ると、そのまま帰っていった。
ラムンを破門させた奴なら、ガゼルの言いなりになっていたあちら側の人間だ。闇に紛れて誘い出して、襲撃してくるつもりだったか?
明日、明るいうちに来るならそれから考えよう。
夕食は宿の女将さんが肉と野菜を煮込んだスープを部屋に持ってきてくれた。黒パンと野菜の酢漬けも多めだ。
そう、ノアールとの旅でもう一つ問題があった。
周囲の人から2人分の食事を用意して貰っても、わたし1人で食べないといけないことだ。それと、ノアールには味覚がないから「味」を説明しようがない。
「林檎が酸っぱいな」
と言って「酸っぱいってどんな感じなんですか?」と問われて説明できるか?
わたしにはできないな。
しかし、ノアール自身は全然それを不自由とは思ってない。むしろ、味のせいで「食べやすい」とか「食べにくい」とかあったら面倒に感じるかも知れない。




