【片足の騎士】第14話 ノアールの機嫌
雰囲気の悪い冒険者ギルドの建物を出て、飯屋に向かうことにする。あの居心地の悪さでは、神経が図太いわたしでもギルド内のホールで食事はできなかった。
太陽はまだ南中してないが、ライ麦パンとチーズと燻製肉を炙ったものを買って宿に戻ることにした。
宿の女将さんに、牛の乳を薄めて温めて貰う。それにライ麦パンを浸しながら囓っていると、いつになくノアールがわたしを凝視してきた。
「妾、ここ最近で食事を頂いてない気がします」
あ……気付かれたか。
ここへ来る途中の森で、魔物と森に集まる魔を丸ごと喰らってる。かなりの食い溜めをしてるはずだが、しばらくの間食べてないのは事実だ。
「自分から食べなかっただけだろう。孤児院襲撃の時に、魔法使いの呪具をバラバラにして『わたしの舌を満たさない』と言ったじゃないか」
ピクリとノアールの顎が上がった。揚げ足を取られて「しまった」と思ってるな。
「はい、言ったかも知れません」
あ、微妙に誤魔化そうとしてる。そろそろ旅に出たくなったのだな。
「美食家のノアールを満足させる呪具や呪符があれば良かったんだけどね。腕のいい仕立屋はいる町だったんだけど、魔道具屋はいなかったんだよ」
仕立屋……の単語で、またノアールの顎が動いた。美食家の煽ても効いていそうだ。
「いいえ、服を直してくれる仕立屋さんがいるだけで十分です。妾は、まだお腹は空いてませんから大丈夫です」
これで機嫌を直したか? もう一押ししておこう。
「もう少しだけ、我慢しておくれよ。この町でのゴミ掃除を終えたら、ノアールが望むところへ連れて行ってあげるからさ」
「はい。我慢します」
ノアールはニッコリと笑って「我慢する」と約束してくれた。
ナルシエの町は一通り何でも揃っているが、わたし達にとって不自由な点が一つある。近くに川や泉がないのだ。
いや、井戸の水は豊富で畑仕事でも水不足は経験したことないそうだ。少し離れると高い山があるから、そこから地下を伝って水が来ているのだろう。
川や泉がないと、ノアールに身体を洗わせる場所がない。
わたしは宿の裏庭に行って水桶で水をかぶっていればいいのだが、ノアールの裸は他人に見られたらまずい。長い黒髪は、乾かすにも時間がかかるし。いつも旅の途中に、人気のない川や泉を選んで洗っている。
部屋に水桶を持ち込んで、浴布で身体は拭いているのだが、黒髪はしばらく洗ってない。
まあ、ノアール自身は身体を洗えないことは全然気にしてない。
あれ?
いざとなったら空間を繋いでどこかの泉に行かせればいいのか。




