【片足の騎士】第12話 養われる身
朝日の眩しさで目が覚めた。わたしが寝台から身を起こすと、壁に寄りかかって床で眠っていたノアールも顔をあげる。いつも、わたしが目を覚ますのと同時にノアールも起きる。
ノアールは寝台では眠らない。
裸の身体を毛布で包んで、壁を背にしながら床に座り込み、身体を包んだ毛布から左脚を外に伸ばして眠りに就く。
ノアールの左脚には蛇の頭を持つ触手がある。普段は左脚に巻き付いているが、ノアールが眠ると蛇は鎌首をもたげて周囲を警戒するように眼を光らせる。
ノアールは立ち上がると毛布を寝台に置いてから、黒のローブを羽織った。右手の鉤爪や左脚の蛇が邪魔で、下着が着けられないから……まあ、仕方がない。
そう言えば、前にノアールに下着を着させようとしたことがある。
「下着を着ない方が、すぐにイイコトができるから便利なんですよ」
「イイコトって何だい?」
小首を傾げてから、しばらく宙を見るノアール。
「きっと、イイコトなんですよ」
ニッコリと笑っていたが、イイコトの意味はわかってないな。知ってたらもっと面倒になりそうだから、聞かなかったことにした。
こんな物言いを、どこで憶えて来たのか謎だ。
何となくノアールと旅をするようになってしばらく経つが、特段に不自由を感じることはない。ノアールは、存在こそ人外だが、素直で従順な性格をしている。多少常識がズレているが、気配りもできる。
唯一不満があるとしたら……この、朝起きて最初に視界に入るのが「蛇の頭」であるくらいだ。
剣を持って宿の裏庭へ向かう。ノアールもついて来る。
宿を取る際に「朝と夕に剣の素振りをしたいから、裏庭を使わせて欲しい」とお願いして、許しを得ている。
「おはよう」
「おはようございます」
剣の素振りをしていたら、宿の女将さんが井戸に水を汲みに来た。力仕事なので、ノアールに手伝わせると「昨夜の残り物だ」と言ってライ麦パンと根菜の酢漬けをくれた。
「最近、わたしはノアールに養われてる気がするんだよね」
剣の素振りを終えて、宿の女将さんが置いていってくれた水桶と浴布で汗を拭きながらボヤいてみた。
旅の途中。
農家の力仕事をノアールが手伝って、そのお礼として畑の野菜を貰ったりしている。右手は隠しているが、左手だけでも何人何十人分の力持ちだ。
貰った野菜もノアールは食べないから、わたしだけが食べてる。
「嫁を養うのは当然ですから」
ああ、そうだった。わたしはノアールから嫁認定されていたんだっけ。




