【片足の騎士】第10話 夜が明ける前に
7人いた仲間で、もう動けるのは自分1人になったのを知ったガイルは、その場に跪いて頭を下げた。
「悪かった。もう、絶対ラムンの前には現れない。孤児院にも絶対に手を出さない。だから、助けてくれ」
両手をつき、何度も何度も地面に額を擦りつけるように頭を下げる。油に引火した炎に焦がされた赤毛がチリチリになっている。
「ほ、本当だ。これから毎年、孤児院へ支援することも約束する。嘘はつかない」
涙声で必死に哀願するガイル。わたしは黙って踵を返す。
……だが。
案の定、背後から下司な殺気が流れ込む。
わたしの背後を取ったつもりのガイルは、ロングソードを大きく真上に持ち上げ、振り下ろそうとしていた。
左足を軸に身体を捻り、回転の勢いを付けて右脚の蹴りをガゼルの脇腹に叩き込む。
激痛に体勢を崩し、尻餅をついたガゼル。その手が剣を取り落とす前に、左脛に海賊の剣を振り下ろした。
ガゼルの顔面が、目を見開き、口が開いて縦に長くなった。絶叫しようにも、ショックで声が出ない。
「アンタみたいな往生際が悪い下司の相手はホッとするんだ。いくら痛めつけても、罪悪感を感じなくて済むからね」
痙攣しているのか、もがいているのか……ガイルは、身体をビクビクと震わせている。
もう少しすれば、この火の手を見た町の者達が駆けつけるだろう。
ノアールは、魔法使いの持っていた筒状の呪具をバラバラにしていた。
「魔を呪符に封じて、筒の中で炎を生じさせる呪具でした。呪符の質が悪すぎて、妾の舌を満足させてくれません」
いや、舌で味わってないだろ?
魔法使いはノアールに抵抗してしまったのだろう。この騒動の唯一の死者となった。
実は昼間のうちに、ナルシエの町の中心街へ行って、ゼークトの町の市警とレイドリク伯のもとに「ガゼル・ドゥ・ガルディバが、ナルシエの町で匿われている」旨の手紙を出した。
ゼークトの町は、ガゼルに懸賞金をかけたバーガムディ公のお膝元で、ガゼルが問題を起こした場所だ。手紙を受け取れば、市警官や兵士が来る。ガゼルは怪我で動けなくしたから、あっさり身柄確保で落ち着くだろう。
レイドリク伯が、ガルディバ伯の弱みを押さえて牽制してくれたら有難い。
後はラムンの破門が取り消されれば、孤児院は今のまま続けられる。いっそ、破門されたまま普通の女としてライセンと結ばれるのもありか?
まあ、どうでもいい。
今のわたしはノアールを宥めるので背一杯だ。お気に入りの緑の服が直せてないし、マトモな食事にありつけなかった。
ノアールは頗る機嫌が悪い。




