【片足の騎士】第5話 片足の男
わたしは、ガゼル・ドゥ・ガルディバとは初対面で顔も知らなかった。
しかし、ガゼル・ドゥ・ガルディバを知る者からは「会えば直ぐにわかる」と言われたものだ。何故なら『虫唾が走る』からだ、と。
言い得て妙とは、真にこれ。
ガルディバ伯の三男ガゼルも、過去に習わしに従い軍務には就いた。少し前の戦のおり、バーガムディ公の要請を受け地方領から兵が招集されたことがある。
ガルディバ伯の兵を率いたガゼルは、戦場には赴かずにゼークトの町で遊び呆けた。更に、ハメを外した乱痴気騒ぎが問題になりバーガムディ公の怒りを買ってしまう。それで、ゼークトの町から逃げ出したのである。
この町にガゼルがいるのは、おそらく父であるガルディバ伯が自分の所領で匿っているからだろう。
「ガゼル様、お止め下さい」
わたしの後ろから声がした。振り返ると、あの片足の男がいる。男は、わたしの脇を抜けてガゼルたち3人と向かい合う。
「子供達の前で、大人が争う様を見せるべきではありません。どうか、お帰り下さい」
片足の男は深く頭を下げた。ガゼルの顔に下卑た笑いが浮かび、顎で護衛の1人に合図を送る。護衛はニヤリと笑いながら頷くと、片足の男の胸座を掴んだ。
……だが。
片足の男は、胸座に伸びた腕をあっさりと捻って地面に押し倒す。突っ伏して倒れた護衛の首筋を、右の膝で押さえつけてしまった。
仲間を助けようと、もう一人の護衛が片足の男に剣を振り下ろす。だが、男は膝で押さえ込んでいる護衛の剣を奪い、振り下ろされる剣を受け止める。
いや、受け止めたのではない。瞬時に上半身の膂力を効かせ、相手の剣を打ち据えていたのだ。剣を振り下ろした護衛の方が、手の痺れに剣を取り落とした。
素晴らしい身のこなしだ。
この場の収め方を考えながら、わたしはガゼルの方へ近づいた。ガゼルにも、わたしがただの女と違うのはわかったらしい。顔が恐怖に引き攣っている。右の拳を、ガゼルの鳩尾に食らわせた。
カゼルが低い呻き声を漏らし、白目を剥いて倒れ込む。
「ご主人様がお休みだよ。さっさと連れて帰りな」
わたしの呼びかけに、2人の護衛は顔を見合わせる。片足の男の拘束から逃れた護衛が、わたしの方へ敵意の籠もった視線を向けた。
しかし、気絶したガゼルを放置はできない。1人がガゼルを背負って、3人揃ってその場から去って行く。
「ありがとうございます」
片足の男は、わたしに対しても深めに頭を下げた。あくまで丁寧で腰は低い。しかし、改めて見ると上半身と残った右脚の筋肉は、鋭いほど鍛えられていた。




