【嘆きの森】第7話 泣き叫ぶモノ
ボルガは唐突に目の前に現れたノアールに驚いていたが、その顔は直ぐに余裕を取り戻す。電撃的な現れ方をしたはずのノアールが、慌てふためいているのだ。
「ラゲルナ様、火が!」
ノアールが空間を繋いで現れた場所は、ボルガの炎の玉による魔法の炎が燃える直ぐ傍だった。
「どうしましょう……服が焦げてしまいます!」
服を気にして慌てているノアールを見て、ボルガは「ノアールが火を怖がっている」と思ったに違いない。
「驚かせてくれたご褒美よ。受け取りなさい!」
ボルガが右手を前に差し出すと、これまでより一回り大きな炎の玉が現れた。炎の玉はユラユラと揺れながら無秩序な軌道を描いてノアールに迫り、右肩に命中した。
「あぁ!」
ノアールが悲鳴を上げた。あの炎の玉は真っ直ぐに撃ち出すだけではなく、思い通りの軌道で目標を狙い撃ちできるようだ。
緑のマントが魔法の炎に包まれる。マントは燃えて、ノアールの肩から二の腕までが覗く穴が開いてしまう。穴の開いてしまったマントを、ノアールは悲しそうな眸で見つめている。
「あははははは」
ボルガの甲高い笑い声が滝壺に反響して、滝がノアールを笑っているようにも聞こえた。
「酷いです……どうして、貴女はこんなことをなさるんですか?」
ノアールの声は、涙声になっていた。それがボルガの優越感をくすぐったようで、更に声を高めて笑い出した。
「あははははは」
ボルガは黒い翼をこれ見よがしに広げて、宙に浮く。空を飛べないノアールに、自らの優位を誇示しているつもりだろう。
「あんたが弱いから決まってるでしょう。弱い者が泣き叫ぶ姿を見るのは、強い者にとっての当然の娯楽だわ」
勝ち誇っているボルガを無視して、わたしはノアールの傍に行く。マントの留め紐とスカートの左側を留める紐も解いた。泣きそうなノアールを宥めて、マントと半分のスカートを手に取る。
「当人が、ああ言ってるんだ。少しいたぶってやりなよ」
ノアールは小首を傾げて、困った顔をする。
「でも、ラゲルナ様。どうやったら『いたぶる』ことになるのでしょうか? 妾、やったことがありません」
ああ、そうだった。ノアールは面倒くさがり屋なのだ。手っ取り早く喰らうことを最優先にする。
「取り敢えず、アイツが炎の玉を放ったら、それをアイツの背中にくらわしてやりな」
「……はい」
納得しきってはいないようだが、わたしの言うことには従順だ。視線を宙に浮くボルガに向ける。左脚に巻き付いていた蛇の頭を持つ触手も解き放たれて鎌首をもたげた。




