【嘆きの森】第6話 助けておくれ
腰を落として剣を構えるわたしを見て、ボルガは緑色の双眸を細くした。紫色の唇の端がつり上がっているのは、面白がって笑っているのだ。
宙に浮いたまま、水辺まで移動すると地面に降りる。そして、また消えた。
しかし、わたしには今度ボルガが現れる場所はわかっている……わたしの一番近くにある魔方陣!
背中にボルガの気配を感じるより早く、海賊の剣を回転させて逆手に握っていた。真後ろに剣を突き出すのと、背中にボルガの気配が現れるのはほぼ同時だった。
「……ぐっあ」
ボルガの呻き声と共に、剣先に確かな手応えを感じた。わたしが振り返ると、脇腹に穴が開いているボルガの姿があった。
鉄と魔は相性が悪い。鉄剣に触れた魔は、ボルガの身体を維持できずに四散してしまったのだ。
ボルガは予め呪詛を刻んだ魔方陣を、地面に描いていたのだ。おそらく、この森の至る所にボルガの魔方陣が仕掛けられているのだろう。魔方陣から魔方陣までを転移することで空間を移動していただけ。
ノアールのように、好き勝手に空間を捻って繋げられるわけではないから、魔方陣の場所がわかれば、予測は簡単だ。
「これが、何だというのかしら」
脇腹の穴に手を添えて、ボルガはニヤリと笑った。右手を上に掲げると、白い靄が森の方から流れ込んでボルガを包む。すると脇腹の穴が塞がっていった。
「言ったでしょう。この森にはボルガへの呪いで魔が集まっているって。ボルガの心臓が生きている限り呪いは続くのよ。この森と心臓がある限り、私の力は永遠なの」
毒々しい中年女の顔が悪戯っぽく笑った。気持ちのいいモノではないが、わたしとしては、もうどうでも良くなっていた。
宙に舞って遠距離から炎の玉を投げつけてくる魔物なんて、剣使いのわたしにはもともと相性が悪い。
思い出したくない過去を抉られたり、趣味の悪い性癖を聞かされてカッとなりはしたが、一矢報いたから十分だ。後は、ノアールに任せよう。
「ノアール。助け……」
わたしの言葉が終わらないうちに、わたしとボルガとの間にノアールが現れた。
当然、ボルガは驚いている。ボルガには、魔方陣の仕掛けもなしに空間を転移できる理由はわからないだろう。
しかし……予想以上に早く現れたノアールに、わたしの方も面食らってしまっていた。
「……て……おくれ」
意味がないと思いがらも、そのつもりだった言葉が口から漏れた。
背負っていた荷物がないのを見ると、戦うつもりで来たらしい。もしかしたら呼ばれるのをずっと待っていたのか?
いや、それならさっさと助けに来いよ。




