【嘆きの森】第5話 せめて一太刀
宙に浮くボルガが、胸の前で掌を上に向ける。すると、その手が赤く光りだした。ボルガは、赤く光る掌を地面にいるわたしに向けた。
ゴォォォン
わたしの3歩先の地面に火柱が上がる。ボルガの光る掌から、光る玉が放たれて地面に突き刺さったのだ。
「……炎の玉?」
まるで油に火がついたように、勢いよく燃え上がっている。強烈な熱気が岩の間に疎らに生えた草を焼き、その青臭さが鼻をつく。
赤く光る両の掌をこれ見よがしに広げると、ボルガはニタリと笑った。
剣の届かないところから、炎の玉を放たれるのは厄介だ。尖った岩で足場が悪いところに、燃え続ける魔法の炎で動ける範囲を狭められている。
更に、面倒な攻撃がくる。
剣の届かない距離を見据えて地上におりると、ボルガは不意に姿を消してしまうのだ。そして、わたしの死角を突いて姿を現しその怪力で殴ったり蹴ったりしてくる。
……完全に遊ばれている!
脇腹を蹴られて足が縺れた。尻餅をついたわたしの姿を見て、面白そうに笑う。
「あはははは」
甲高い声で笑いながら、ボルガはまた黒い翼を広げて宙に舞った。赤く光る掌から放った炎の玉は、わたしの2歩前で火柱を上げた。
「ねえ、知ってる?」
宙に浮いているボルガが、滑るようにわたしの方へ近づいてくる。
「絶望して、泣き喚くことにも疲れ果てた者はどうするのか?」
地面にへたり込むと見せて腰と膝のバネを溜めて置いたが、やはり警戒して剣の届く距離までは近づかない。
「殺してくれ……楽にさせてくれ……って、私に頼むの。涙を流しながら、必死にね。わかるかしら?」
頬を紅潮させ眼を潤ませた恍惚の表情から、ボルガは悪戯っぽく笑って見せる。その顔に、わたしは本気で吐き気を覚えた。
「私はね、誰一人として無理矢理殺してないの。慈悲深い心で、願いを叶えてあげただけ。本当の私は天使のような優しい女だったのよ」
……ギリッ。
思わず、奥歯を噛みしめた。
「あはははは」
またも高笑いするボルガだが、その声すらも吐き気を感じさせる。これ程に嫌悪する相手は、人生で初めてかも知れない。
わたしは海賊の剣を杖代わりにして立ち上がった。その時、魔法の炎が燃えていない地面に小さな魔方陣が描かれているのに気付く。
なるほど。消えるのが、地面に降りてきた時だけだったのはこれを使うためか。
「貴女にも慈悲をかけてあげるわ。心臓をあげます……と言いなさい。そうしたら、その場で楽にしてあげるわ」
コイツがノアールの餌になる前に、せめて一太刀食らわせてやる!




