【精霊】第14話 辛勝?
わたしは上に視線を向ける。
女の顔の魔物も、わたしを見ていた。生きているわたしを見て、小首を傾げているようだ。ノアールのように知恵を持つ存在ではないようだが、この力はノアールと同質な気がする。
(……あれは魔物なのか?)
女の顔の魔物は、わたしに興味を持ったらしい。上空からゆっくりと、わたしの方へ降りてくる。
反射的に腰に手をやったが、海賊の剣はそこになかった。ケビンが大木に投げつけたのだっけ。
(……ったく、今日は厄日だ)
女の顔の魔物がすぐ側に降りてきて、わたしに白い手を伸ばす。その腕を、ノアールの左手が握った。
「お姉さま。ラゲルナ様に手を出すことは妾が許しませんよ」
女の顔の魔物は、ノアールの左手を振り払う。そして、再びわたしの身体を抱きかかえようと腕を伸ばした。
「聞き分けて頂けないなら、お仕置きをします」
女の顔の魔物の背中で、景色が変わって見えた。何かを察したように魔物は大きく後ろに飛び跳ねて、その場を離れる。
バチン!!
何かが弾ける音がして、白い翼の片翼がドサリと地面に落ちた。
ノアールは、わたしの前に立って女の顔の魔物と向かい合う。
捻って別の場所に繋げた空間を、無理矢理引き千切ったのだ。そこに在ったものも空間と一緒に引き千切られてしまう。
「世界をズラしても、お姉さまの力は封じきれません。申し訳ありませんが、切り刻むことにしました」
女の顔の魔物は、無表情にノアールを見ている。ノアールの方は「お姉さま」と呼んでいるが、向こうには近親の情はなさそうだ。
ノアールと魔物は、暫し無言で向かい合っていた。
微かな風が木々の枝を揺らし、サワサワと葉擦れの音がする中で、唐突にカイルの声が響く。
「もう少し、後ろに下がらせろ!」
その声を受けたオーレンが、魔物に体当たりをする。不意を突かれた魔物は蹌踉けて数歩後ずさった。
「ようし! オーレン、離れろ!」
剣を真下に向けたカイルが、木の枝から飛び降りた。その真下に、オーレンに突き飛ばされた魔物がいる。
ザクン……と言う、鈍く湿った音がしてカイルの身体が地面に転がる。弱々しい呻き声が漏れるが、身体が動かない。結構な高さから飛び降りたはずで、相当な衝撃だったろう。
しかし、魔物の左腕も切り落とされていた。
女の顔の魔物は、地面に落ちた自身の左腕をチラリと見て、再びノアールに視線を向ける。そして、残った片翼を広げて空へ舞い上がった。
日の光に溶け込むように、その姿は透けて見えなくなってしまう。




