【魔弓】第14話 魔狼
魔猪を倒し、更に森の奥に進むと周囲に白い靄が立ち込めた。それはレイバー達3人の前に集まり収束……そして、大きく膨れ上がり、人の大きさほどになる。
オォォォーーーン
獣の咆哮が聞こえた。3人は、それぞれの武器を手にして身構える。
「魔狼!」
かなりの大物が登場したようだ。レイバーよりも頭一つ分大きい。
魔狼は、正面から斬り込んだレイバーのロングソードを右の爪で弾き、サリアの放つ矢をも叩き落とした。
しかし、攻撃が効かないわけではない。
ギャァァァン
魔狼の悲痛な叫び声が森に響いた。飛んでくる矢に気を取られていた隙を狙ったレイバーの斬撃が、魔狼の左の太腿を抉ったのだ。動きの鈍った魔狼に、アデルが護符を投げる。白い靄が帯となって、魔狼を縛り上げて拘束した。トドメを刺したのは、サリアの射た矢だった。
大物を屠った満足感から、3人の顔には少し緩んだ笑みが溢れる。
なるほど、確かに腕は立つのだろう。リーダーで剣使いのレイバーは、他人の話を聞かないし、自分が一番でないと気が済まないワガママ坊やだが、剣さばきはなかなか。アデルは、何種類もの護符を使い分けている。サリアは、体力はないが肝は据わっているのだろう。この状況下でも魔物の急所を矢で狙えるのだから。
チームワークもいい。ワガママ坊やのレイバーですら、無理に一人でトドメを刺しに行こうとはせず、切り込み役の役割をわきまえている。
わたしとノアールは、完全に忘れられた存在になっている。アデルは振り返って、わたしの方を見たが、他の2人はわたし達をチラともこちらを見ない。
しかし。瘴気のように不気味で、ドロドロした気配は、依然として森に溢れたままだ。
再び、レイバー達の前に白い靄の塊が現れる。今度は3つ。
それぞれが先程と同程度の大きさの魔狼となった。知恵があるのか、群れで行動する狼の習性なのか……3体の魔狼は、闇雲な動きをせずにレイバー達3人の様子を窺っている。
切り込み役でもあるレイバーが、真ん中の魔狼を斬りつけると、他の2体はレイバーのみを狙って取り囲もうとする。
3方向から囲まれることを嫌ったレイバーは、直ぐに剣を引いて元の位置まで下がった。
「おい、あんた!」
チラリとノアールを見たレイバーが、大声を出した。
「あんたは、空間を捻って別の場所に繋げられるんだろ! サリアの矢を、連中の背中へ浴びせるようにできないか?」
唐突に指図をしてくるレイバー。どうやら、呼ばれたのが自分だと感じたノアールが、わたしの方を見た。