【魔弓】第13話 魔猪
森に住み着いた魔物と言うのは、おそらく魔牛だろう。最初に討伐に言った自警団の者が「黒い巨体で二本の角があった」と証言したそうだから。
かなりの怪力で、身体も頑丈。気性も荒く、魔物を使役する技を得た魔道士からもほぼ制御不能な《《凶暴な魔物》》と評されている。
レイバーは「俺たち3人のチームワークなら楽勝だ」と豪語して、いつの間にか「自分達が討伐する」気になっている。
仕事を依頼されているのが、わたしとノアールだと言うことも、自分達3人は「ついてきただけ」と言う約束も忘れていそう。
魔物が根城にしていると言われている森は、想像以上に荒んだ様相になっていた。元々は北の町と繋がる街道が近くを通っているので、人の行き来もそれなりあったはずだ。それが街道を通る人や荷馬車が襲われるようになり、往来が減り、近づく者がいなくなった。
ノアールによれば「魔が集まり出すと、不幸な事故や事件を招き、それが呪いになって更に魔を呼び込む」のだと言う。
もう、魔物は1体だけではないようだ。もっと小物と思われる魔物の気配が森の至るところに蔓延っている感じだった。
レイバーは、一番先頭に立ってロングソードを抜いている。
「アデル、サリア、油断するなよ。どこから出てくるか分からんぞ」
サリアは弓に矢をつがえる用意をし、アデルはローブの懐から護符を取り出す。3人とも、何かが迫ってくる気配は感じているようだ。わたしとノアールは、最後尾から3人の行動を見ていた。
レイバーのすぐ脇を、何かが通り過ぎた。いや、何者かの突進をレイバーが紙一重で躱したのだ。レイバーの脇を通り過ぎた《《それ》》は、後ろにいるアデルとサリアに向かって突進している。
ブオォォォォー!
アデルの投げた護符に触れた《《それ》》は悲鳴のような雄叫びを上げて動きを止める。魔猪だった。決して大きくはない、人の子供くらいの大きさだ。
アデルが、更に懐から木片を取り出す。奇妙な文様が彫り込まれた木片は、アデルの右手に握られると白い靄のような光を発した。白い靄は真っ直ぐに伸びて短剣ほどの光の刃になった。
「霊木で作った短剣の呪具か」
アデルも霊木で作った呪具を持っていたわけだ。
サリアが放った矢が魔猪に突き刺さる。更に雄叫びを上げる魔猪に、アデルが霊木で作った短剣で止めを刺した。
地面に倒れ込んだ魔猪の身体が黒い砂になって崩れていく。黒い砂が風に流されると、その依代となっていた猪の死骸だけが残った。
魔猪を倒しても、3人とも歓喜の声は上げなかった。
それ以上の怪しい気配が溢れているのだから。