【冒険者の矜持】第2話 盗人猛々しい
気付かないフリをしつつ、視界の片隅に荷物を入れて神経を集中させておく。荷物の傍の、川岸の草むらが微かに動いた。何者かの腕が伸びて、わたしたちの荷物を掴んだ。
その腕の主は、荷物を掴んで走り出そうとしたのだろうが思惑が外れる。荷物の重さに、逆にその場から動けなくなってしまう。
荷物袋の中には、わたしの武具や鎖帷子も入っているから大人一人分の重さはある。普通ならば、荷運び用の馬に運ばせる重さである。
力持ちのノアールが背負っているから軽そうに見えるが、普通の人が運べる重さではない。
荷物の予想外の重さにアタフタしているのか、草むらが激しく揺れている。
わたしの海賊の剣は、川の浅瀬に突き立てておいたので、それを手にして草むらに近づいた。
草むらから盗人が顔を出して、その視線が交錯する。反射的に海賊の剣を振り下ろすと、盗人は荷物を置いて走り出した。
意外とすばしっこい……と感じたが、その背中はどうも子供らしい。子供の盗人は、一定の距離を離れるとわたし達の方を振り向いてニタリと笑った。
どうやら、裸のままでは草や木の枝が蔓延る場所を追いかけられないとタカを括っているようだ。確かに、その通りだが……その、他人を小馬鹿にする態度が癇に障った。
荷物袋から投石紐を取り出す。これは、二つ折りすると肘から指先くらいの長さの紐で、二つ折りする中央部に石を包む帯がついている。そこに石を入れて振り回す。遠心力が乗ったところで紐の一方の端を離すと、勢いを得た石が飛んでいく武具だ。
バシン!
ズン!
「ぎゃあぁぁ!」
何個目かの小石が、子供の左腕に当たった。手加減はしているから、骨が折れたりはしていないと思うが、お灸にはなっただろう。
腕を押さえて走り去っていく子供の背中を見ながら、ため息をつく。あの盗人の子供に仲間がいるかも知れないから、早めにここを離れた方がいい。
ノアールの鉤爪や蛇の触手を他人に見られたら面倒なので、黒のローブを羽織らせる。緑の服は着付けるのに時間がかかる。
わたしも服を着ようと浴布で身体を拭いていると、背中から殺気を感じた。
「お前たち、弟に何をした!」
振り返ると冒険者風の男が立っていた。逃げたはずの子供は、その男の後ろにいる。どうやら、仲間を呼んで戻って来たようだ。
「何かしたのは、その子供の方だよ」
「コイツら、魔物だよ!」
わたしの声と子供の声は、ほとんど同時だったが、冒険者風の男に聞こえたのは子供の声だけだったらしい。男は、腰のロングソードを抜いて構えを取った。




