【冒険者の矜持】第1話 水浴び
この街道を真っ直ぐ進めばラズルと言う町に着くはずだ。
割りと大きな町だと聞いているので、宿屋や飯屋はあるだろう。そろそろチーズや干し肉がなくなりそうだから、補充しておかないといけない。
「取り引きしている両替屋があれば金を引き出せるけど、そうじゃないとまた冒険者稼業で稼がないとならないね」
荷物を背負って後ろを歩いているノアールをチラリと見る。わたしの視線に気付いたノアールは、ニッコリと笑い返してくる。
旅の道連れであるノアールは、人外の存在ではあるが美人だ。
……見た目だけは。
射干玉のような長い黒髪に白い肌、真に《《天の細工師がノミを振るった》》如きの整った顔立ち。性格も良く、素直で従順で気配りもできる。
ただ多少……と言うか、かなり常識がピント外れではある。
人外の存在なので、食べ物を必要としないし味覚もない。なので、お金や食べ物が必要なことにはノアール自身は無頓着なのだ。
「はい。では、妾が働いてちゃんとラゲルナ様を養います」
旅の途中で『嫁』と言う言葉を覚えたノアールは、わたしのことを「嫁認定」している。嫁を養う義務があるから、と妙に労働に意欲を持っている。
……筋金入りの面倒くさがり屋のくせに。
街道を歩いていると、微かに空気の匂いが変わった。耳を澄ますと、水の流れる音が聞こえる。
「川がありそうだね」
街道から外れて、木々の立ち並ぶ林の中へ入ってみる。水の流れる音の方へ進んで行くと、予想通り川が流れていた。街道から奥に入った場所で、人の入った痕跡もない。覗かれる心配もなさそうだ。
「ちょうどいいや。ここで身体を洗っていこう」
「はい」
ノアールが背中に背負った荷物を下ろしたので、わたしがノアールの服を脱がす。ノアールの右手は鷹や鷲のような猛禽類に似た鉤爪になっているので、1人では服の着替えができない。そして、左脚に巻き付いた触手の先には牙のある蛇の頭がついている。
この姿は、人外と知っても壮絶だ。
裸になったノアールは、川の中へ入っていった。わたしも裸になって、木炭から作った石鹸を荷物袋から取り出して後を追う。
川の水は、膝くらいまでの深さだ。ノアールを水の中に座らせて、石鹸で身体を洗ってやる。左脚の蛇は、水の中にいるのを嫌うようで水面から頭を突き出してわたしの方を眺めている。
ノアールと旅をするようになって結構経つが、蛇に見つめられる感覚には、未だに馴染めない。
「ラゲルナ様」
「ああ」
わたしとノアールは、人の気配を感じた。どうやら、川岸に置いた荷物を盗もうとする輩がいるらしい。




