【迷宮】第30話 希望と旅立ち
ノアールが壁に大穴を空けたせいなのか……城の魔法の仕掛けと封印の結界は停止してしまった。
「魔物は、魔を吸収し続けなければ存在していられないはずだ。しかし、あの魔牛は、何百年も封じられていて、この城も迷宮の仕掛けをずっと稼動させていた。この城には、魔物や魔力を存在させ続ける秘密があるのかも知れない」
ラグドールは、その秘密を解き明かすことに意欲的だ。これが解明できれば、オルティナに魔を供給し続けることができる……とは言わなかったが、それが本当の希望だろう。
別れ際に感謝の言葉を言われたが……壊すなと言われた仕掛けを壊してしまって、感謝されるのは妙な気分だった。
ノアールは、オルティナから約束通りに磁石を貰って喜んでいる。
「アンタは、物を浮かせる魔法が使えないからね。この金属の針を薄く削った木片に乗せて、水に浮かせるんだ。そうすると水の上でゆっくりと北を指し示すよ」
スープを盛る器に水を張り、その上で磁石が北を指すのを面白そうに眺めている。あちらで試して、こちらで試して、高いところに登って試してと忙しない。
オルティナからも、感謝の言葉を言われたのだが……わたしとしては、オルティナの存在に感謝したい気持ちだ。
「礼拝堂でラグドールが襲われた時に、あの連中を『殺してやる』とは考えなかったのかい?」
わたしの問いに、オルティナはさも当たり前と答えた。
「ラグドールは、許さないからね。仕方ないだろ」
魔物の本能は、人に恐怖や呪いの負の感情を植え付けることだ。なのに、オルティナは魔に呑まれた今でも『人の意識』を保っている。もしかしたら、わたしが魔に呑まれても、人の心を失わないで済むかも知れない……そう、思わせてくれた。
そんなわたしの気持ちを見透かしたのか、別れ際に言われた。
「アタシの印を刻んどけば、アンタの魔除けになるかと思ったけど……要らなかったね。あんな化け物が取り憑いてるのなら何も近寄れないよ」
ノアールの認識が、使い魔から化け物になっていた。
ノアールは、水を張った器に磁石を浮かべて「こっちが北ですから」と、旅の主導権を握ったつもりで燥いでいる。
燥いでいるノアールに、わたしは気になっていることを訊いてみる。
「あの、白と黒の翼だけどさ。ノアールは飛べたんだね」
「はい。飛べます」
「言ってくれれば良かったのに」
ノアールは、チラリと空を見やった。
「空間を繋げれば直ぐに移動できますので、いちいち飛ぶのは面倒です」
やっぱりノアールは、筋金入りの面倒くさがり屋だ。
Ep 迷宮 -終-




