【迷宮】第26話 造られたモノ
預かったを服を荷物袋に詰め込んで、ノアールを追いかける。
ノアールが石壁に開けた大穴を潜ると、そこは礼拝堂だった。正面には瓦礫と化している祭壇があって、オルティナがラグドールを庇って魔牛と対峙している。
礼拝堂には、ラグドールとそれを庇うオルティナしかいない。ラグドールから地図を奪ったドーゼの冒険者たちは、転移の仕掛けで他の地点に逃げたのだろう。
ノアールは、礼拝堂の中央通路で片膝をついた姿勢からゆっくりと立ち上がる。ダイヤモンドダストのようなキラキラと輝く光粒子は薄れ、その背から《《白と黒の翼》》も見えなくなっていた。
魔牛は、ノアールには全く興味を示さず、祭壇の瓦礫の中に佇むラグドールとオルティナだけに視線を向けている。
「ラゲルナ様。剣を貸して下さい」
わたしに気付いたノアールが、振り返って左手を差し出した。裸のノアールには、数粒の光の粒子が蛍の如く纏わり付いている。
左脚の蛇の頭を持つ触手は、臨戦態勢とばかりに牙を剥いて大きく伸びる。
「剣って……これは鉄だよ、大丈夫かい?」
「左手なら、持てます」
言われた通りに、海賊の剣を引き抜いて、ノアールに渡す。すると、魔牛がわたし達の方へ向き直った。
ノアールは、海賊の剣を握った左手を真横に伸ばした。
「この牛さんは、鉄を攻撃するんですよ」
……え?
そう言えば、ドーゼの冒険者に「鉄の剣」を確認されたのを思い出した。
「この牛さんは、自然に発生した魔物ではないようです。おそらく、太古に人の手によって造られたモノでしょう。鉄を持つ者を攻撃する習性を植え付けられています」
何のために?……と思ったが、直ぐに合点がいく。鉄は武器として使われてきたのだ。戦の場で、この魔牛を解き放てば、武器を持った敵を蹴散らしてくれる。
……もっとも。
鉄の武器を持つのは味方も一緒だ。敵と味方を区別できずに攻撃するなら、ただ厄介なシロモノに過ぎない。それで封印するしかなかったのかも知れない。
中庭の方から人の声が聞こえた。ここを脱出した連中が、転移の迷宮を伝って中庭へ出てきたのだ。
「ラゲルナ様。離れていて下さい」
ノアールは左手を前に向けて、鉄の剣で魔牛を誘った。
オォォォォォーーーン
甲高い雄叫びをあげて、魔牛がノアールの方へ歩き出した。ノアールは後ろ向きのままで、ゆっくりと後退する。
そして石壁の大穴を潜り、中庭に出た。
既に、魔牛を閉じ込めていた結界も壊れているのだろう。魔牛も大穴を潜り、中庭に出てしまう。
ノアールは、左手の剣を冒険者の声のする方向に投げつけた。




