【迷宮】第25話 白と黒の翼
「この地図さえあれば、ここから出られるぜ」
ラグドールの懐から地図を奪った冒険者たちは、わたしとノアールの反対方向へ走り出す。わたしを抱えたままでノアールは、その連中を追いかけようとした。
次の瞬間、わたしは目眩を感じる。ノアールも蹌踉めいた。
「ここは西棟?」
礼拝堂の中にも転移の仕掛けがあったのだ。わたしとノアールは、西棟の何処かの地点に転移させられていた。
オォォォォォーーーン
甲高い雄叫びが、西棟の石壁に響き渡る。わたし達を追いかけて、魔牛も転移して来た。
……だが。
わたし達の方へ一歩踏み出した魔牛は、直ぐに転移の仕掛けでその場からいなくなってしまう。
「なるほどね。あの巨体だと、2階の高さに設けられた魔法陣を横切ることになる。この城の魔法陣の仕掛けは、魔牛だけを、礼拝堂に閉じ込めるためのものだったわけだ」
ラグドールの推察通り、ここは魔牛を閉じ込めるための城だったのだろう。しかし、それなら魔牛はラグドールとオルティナの《《眼の前》》に戻っていることになる。
「ノアール、行くよ!」
ノアールの腕から飛び降りたわたしは、中庭に面するはずの壁を指差した。
「ノアール、あの壁をぶち破っておくれ」
今から転移を繰り返して礼拝堂に行くのは時間がかかる。あの壁を壊して中庭に出て、更に北面中央部の石壁を壊した方が早いはずだ。
「はい、わかりました。では、服を脱がして下さい」
「え?」
「壁を壊すときに、埃で服が汚れてしまいますから」
埃で服が汚れるから……と言ったのは、わたしだった。それに、ノアールは裸の方が強い。
今回はマントやスカートの左側だけではなく、服を全部脱がせる。解き放たれた蛇が鎌首をもたげた。
「では、行きます」
そう言って、両手を横に広げるノアールの周囲に白い靄がかかる。その靄がキラキラと輝きだした。
まるで北の地で極寒の中に舞い上がるダイヤモンドダストのよう……。
ノアールの両足が地面を離れて宙に浮く。キラキラと舞い上がる光の粒子は、ノアールの背中で翼の形になってゆく。
右肩には白い羽根の翼が、左肩には爪ある黒い鱗の翼が具現化していた。
「ノアールに……翼があったの?」
白と黒の翼がゆるくはためくと、ノアールの身体が光の粒子に包まれる。そして、光の尾を引いて彗星のように流れた。
ゴォォォ……ン
重い轟音と共に城が揺れ動く。
尾を引く彗星は、壁に大穴を開けて、中庭に飛び出した。
そして、中庭で方向を変えた彗星が、礼拝堂を封じた石壁にも大穴を開けて中に飛び込んで行った。




