走り去って行ったオタク
嫌、同士にされても困るんだけど?…。
「お疲れ様です!」
そう答えた俺の目線に気が付いた様で。
「これが気になる?」
とサイドカバーを指差す。
「まさか響〇さんが描いて有るとは…」
先方もピンと来たようで。
「何処から知ってる?」
同じ匂いを向こうも感じ取った様だ。
「勝〇なや〇らから…」
答えると両手握手されてしまった。
「おお同士よ!」
嫌、同士にされても困るんだけど?…。
「見ない顔だけど、最近入ったのかい?」
と聞かれる。
「入って二ヶ月位です」
そう答えると、含みの在る不気味な笑みを湛えて。
「いつも何所で買ってるんだ、単行本?」
(ΦωΦ)フフフ…
自慢気に聞いて来られる。
「地元の書店ですが、其れがどうかしましたか?」
(・・?
「取って置きの話だ!、神田のコ〇ック〇岡なら二日前にブツが手に入る、絶対行ってみろ!」
( ・´ー・`)ドヤ!
如何言う事なのか聞こうとしたんだが、時計は良い時間を指している、荷が到着したみたいだ。
「あっ時間だな、受取り行くぞ!」
と受け取りに向かう。
「今度また何処かで会ったらまた話そうぜ!、其れと今月新刊出るから絶対神田に行って見ろ!」
最後にそう言い残し2stの音を高らかに痛車とオタクは走り去って行った。
未だ其の呼び名は無いって!
後日発売日二日前に神田の書店街に行き、お目当ての〇ミック高〇に入ると未だ売られて無い筈のブツは其の店頭に確かに並んでいた…。
<やはりオタク恐るべし…>
だからまだ無いんだってその呼び名!。
学生が夏休みに入って間もない日、詰所で休憩を摂る岩木先輩が精気を失くした疲れ切った顔をして居る。無理も無い俺も同じ事に為ったなら其れでは済まないだろう、一晩中山中を彷徨い歩き廻り、然も陽の昇る前とは言え、空が白み始め周りの状況が判る時間で眼前に拡がる其の場を目撃したならば、話は其の二日前に遡る。
俺はその日は日勤で11時からの乗務で上りは19時、明日は休み番に為るシフト、俺の最後の乗務は東京駅に向った、今年は未だ半人前で無理だが一人前に成って此処から新幹線に乗るのかな?、否、約束したんだよな大きなバイクで帰って来るって、兄ちゃんて呼ぶ子を背に乗せ俺の好きな場所へ連れて行って上げるって、故郷へ帰る人々でごった返しのホームの取材に同行し其の光景を少し羨ましく思いながら撮影したフィルムを持って帰って来たんだ。
16時に出勤して来た岩木先輩は深夜勤務で24時迄、其の侭引続き0時から翌朝8時まで乗務、そう泊まりのシフトに充当される、俺が帰る直前に詰所は一気に不穏な空気に変わった。
皆様和やかに過ごしていた、俺ももう直ぐに上がりそんな時に詰所のインターホンが鳴り、社員さんと岩木先輩が呼ばれる、単独で呼ばれる事が殆どで偶に複数の案件が重なり同時に呼ばれる事は在るが、其の乗務の内容から帰社時間を逆算して別々のシフトの方が呼ばれる事が殆ど…。
だが今呼ばれ方は二人供泊まりのシフト、其の御二方が同時呼ばれるとは…、詰所内に緊張が走る…。
御二方がデスクの処から戻られ告げた言葉、先程迄和やかだった詰所は一気に緊張に包まれる。
「飛行機が、ジャンボが墜ちたらしい…」
ジャンボって国内では最大の乗員乗客数を載せた航空機だろ…、其れが墜ちたって……、故郷へ帰る人々で新幹線ホームも人が溢れてた…、飛行機も同じだったんじゃ……。
「未だ報道規制が掛かっているが、もう直ぐTVでも速報が流れるだろう…」
戻って来た社員さん方が告げた。
未だ大きな事件事故等に当たって居ない俺は、如何したら良いか解らずに居た…、そんな俺に皆が声を掛けて呉れる。
「ダイヤ表通りだから気にする事無いぞ、気を付けて帰れよ!」
同じ事務所の一番の先輩飯岡さんが声を掛けて呉れたが、乗務の終わる時間が近付き後ろ髪を惹かれる様な気持ちだった。
「森田気にして事故って俺達の仕事増やすなよ!」
詰所に居た先輩たちは、皆揃ってそう言って呉れた。
「ゆっくり休めよ!」
岡田さんと桜庭さん、気遣いが温かった。
規制解除、TVにテロップが流れたのがほぼ同時だった。
「ほらほら帰れ、休み明けは忙しいから其の時に存分に走って貰うからな!」
皆で帰った、帰ったと言ってくれる。
『気を付けて帰れよ~!』
詰所を出る時皆の声が聞こえた。
「皆さんの仕事を増やさない様に、気を付けて帰ります」
閉じられた二輪部と書かれた扉の前で頭を下げ、そう俺は呟いてた…。
自宅に到着飛び込むようにTVを点ける、次の勤務迄は私が得られる情報は皆さんと同じ。
食い入るようにTVを見続ける、先発で岩木先輩が走って居る筈、未だ何処に落ちたかは解らないとTVは繰り返していた。
朝中継が入った生存者有りと系列のヘリとジェットからの中継で画像が流れる!。
「助かった方がいらっしゃる!」
俺の身体は震えていた。
自宅にダイヤの変更の連絡は無く、休み明け出社するとピストンで3名が代わる代わる群馬迄走って居ると教えられる。
三名の方がそちらに向かわれてる、其の一名が今俺の前にいらっしゃる岩木先輩、それでも通常の乗務は変わらず発生する。
「忙しいぞ、思う存分に手伝ってもらうぞ!」
先生が俺の肩を叩きながら申される。
「解りました、目一杯走ります!」
そう俺は答えて何時も以上に慎重に且つ正確に、何時も以上に速く走って居た。
前回は書けずに居りました、此の日地元の方のインタビューで実際の現場と違う方角を指し示すNHKの報道、方向舵を失い方向も定まらず群馬の上空を彷徨う航空機、其のインタビューに翻弄され現場へ向かってると信じ山中に入られた、警察、消防、自衛隊、其れに続く報道各社、今と違い携帯もGPSも無く在るのは無線機のみ、上空を飛ぶ自衛隊の機体から現場は見えているが地上からは判らない、夜通し山中を彷徨い現地に到着したのは空が白み始めた頃だったそうです…。
先輩方の気遣いがホントに有り難かったです、入ったばかりの新人だったので距離と、多分事故に遭われて落胆されているご家族の方々の気に当てられる事を気遣って私に通常乗務を分担されたのだと思います、岩木先輩が語ってくれた事は其の場所に居合わせ現場に向かった方だけが知り得る事でした。
事故に遭われた方々のご冥福今もお祈りして居ります。
カッペが入社したのは此の年です。