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早く、もっと早く!

「さすがプロ!」

 先輩方と顔合わせを済ませたのだが意外と静なんだ、もっと質問攻めに会うもんだと思ってたんだが何か思惑が有るのかな?、まあアノパートのおばさん見たいにしつこく食い下がられるのは勘弁して欲しいから願っ足り叶ったり、畳に寝そべったり壁に背を預けTV見てたり、長いソファーに座り漫画やバイク雑誌読んでたり各々自由に過ごしてる、俺はと言うと身の置き所が無いっと言った処、如何した物やら…。

(-ω-;)ウーン


 インターホンから呼び出し今日此処に先導して貰った先輩に続けて名を呼ばれる、最初の仕事違うな乗務は先輩に着いて官庁回りに出る事に為る、各省庁の場所と記者クラブの場所を覚える事、其れを兼ねて刷り上がった<本紙>を届ける仕事、平たく言うと新聞配達なんだな、各届先が赤いマジックで新聞に記載されてる。


 各記者クラブを回り脇のボックスに記事やフィルム有れば回収する事も在るが、本来急ぐ物は随時本社に連絡が入る、その都度単発回収要請が掛かるので基本は配達のみになる。


 各省庁を回り最後は一番良い景色の場所、此の大都市東京を遮る物の無い高き場所から見下ろせる場所、今では其の名も聞けぬ場所に成った北海道沖縄開発局、国会議事堂を眼下に眺める高層ビルの粗最上階、西に開ける窓から沈み征く夕陽、この東京の彼方に沈んで征く此の夕陽が沈んで征く遥か彼方に俺が夢を叶えた報告を伝えに還る場所が在る。


<ピンポーン>

 エレベーターホールに響くカゴの到着音。

「さあ戻るぞ!」

 乗務終了を告げられる。

「ハイ!」

 声を掛けられ帰投がスタートする、明らかに来る時よりペースが速い、内堀の左折前にRZ125に捲られたコーナー、先輩は短くブレーキングしバンクさせ立ち上がる、其の一連の動きに全く無駄が無い。

「さすがプロ!」

 此方もその背に続きブレーキングしバンクから立ち上がる、そう今日から俺もプロだから!、俺のペースに気付いたのか先輩のペースは更に速くなる、でも俺着いて行ける!、俺やっと彼らに背を追う事が事が出来たんだ!、本当に諦めないで良かった!。


 多分一寸したイタズラの心算なのかな?、あの時の黒いCBXの様に車の間をストレートにすり抜けて行く、其処に続いて俺も抜けて行く、唯、元々大手町から官庁街迄の僅かな距離しか無いので直ぐに本社に着いてしまったんだが。


「お前速いな、新人で着いて来れた奴は初めてだ!」

 やっぱり新人の歓迎兼ねたイタズラだったんだ!。


 詰所に戻ったら『如何だった?』と皆が一斉に先輩に聞いてきた。

「駄目、駄目置いて来るどころか、最後迄着いて来ちまった此奴!」

 荒っぽい歓迎だった。

「速い奴は大歓迎だ、今日から仲間だ宜しくな!」

 肩を叩かれた時の先生と岡田さんのお顔は笑って居られた、此処に在籍する許可を得られた気がした。



 一月が過ぎ今日が初めての単独乗務!、もう緊張しまくり!、スポーツの仕事で横浜球場から野球結果のピックアップ、本社から遠い地方版用のフィルムは先行で受け取った先輩が既に本社へ出発してる、俺は首都近郊版用を持ち帰る乗務、其々が締め切りの時間が違うんだ、今九回裏ツーアウト、ツーストライクで3対2もう試合結果は見えていた、其れで先程フィルムを預かり本社へ戻る締め迄残り40分。

「普通に走って帰れるな」

 そう思った時…。

「ウォ~~~~」

 地響きの様な歓声が上がる。

「キュンキュン…」

 一斉にスポーツ誌各社の長玉カメラのモードラがフィルムを巻き上げる音がする。


 振り向いた時には大きく舞い上がったボールがスタンドに入って消える、試合の結果が一気に変わった、急いでカメラ席に駆け戻る、モードラはフィルムを巻き上げる音を立てていた。


「さっきのは無しだ、間に合わせてくれ頼むぞ!」

 新たなパトローネを二本託される、残り時間は35分切った、タンクバックに付けたデジタル時計がそう告げている。


 未だ一般道は空いてる、後は高速に乗り本社を只管に目指す、ただ其れだけの事。

 首都高横羽線で渋滞が始まった、其の渋滞に並ぶ車の隙間に飛び込む、直ぐに加速出来るように4速。

 <VT>のレブは8000付近を指している。

 此奴の心臓はモーターの様に11000超えても回ろうとする。

『余裕だ!』


 申し訳無かったが高速で近付く車両が存在する事を知らせる為ライトはHiにさせて貰った。

 <見える、俺が駆け抜けるべき車の間のベストライン!>

 車体を少し揺らす程度で駆け抜け続ける。


 次のS字左右のコーナが続く付近、<如何する?>大型が居る!。

 大型保冷車と海上コンテナを背負ったトレーラが仲よく並んで走っている。

 この速度差のタイミングではコーナで重なる、然も最初の左で…。

 ご丁寧にも左車線にトレーラー、トラクターヘッドは逃げるだろうが引いて居るトレーラー部は右へ張り出す筈だ、ライトを消し其の隙間に飛び込む!。


 案の定コンテナ部が迫り来る、然も左コーナー右車線の大型保冷車の荷台も迫って来る。

「ハンドル幅も無く為るな此れ…」

だが勝算は有った。


 何故なら既に経験済みだ、俺を弟扱いしてた大切な女性を停める為…、プレスに為る事を止め様と必死に成って居た其の女性を追いかけた日に。


 今と違いタイヤの直径が大きくリーフリジットスプリングの当時の大型車、しかも此の頃のトレーラ部には巻き込み防止のガードパイプは着いて無い、ロードバイクなら走行中のコンテナの下に潜り込める!。


 既に俺の左肩はコンテナの部分に重なっている、同速でコーナーを回り見え無かったトラクターヘッドの前輪が見え始めコーナーの終わりを告げて来る、次のコーナーまで後僅か、直ぐ短いストレートに入る。


 トラクターヘッドとトレーラーの姿勢が今だと教えてくれる、飛び出しスロットル開けVTの心臓は唸りを上げた!。


 一気に抜き去りパッシングを受けた、トラックの運ちゃんゴメンナサイ、突然現れてさぞ驚いただろう、大型の頭を抜ける時にライトオン、後は乗用やライトバンばかりスロットル開け続けて本社へ向かった。

車両置き場に戻さずVTを正面玄関に停め、受付脇から従業員用の階段を駆け上がる!。

「待ってたぞ、間に合うぞ、ご苦労さん!」

 スポーツ部へ駆け込み、フィルムを手渡し漸く肩の荷が下りた。


 横浜球場から約20分、今までの最高記録と対だった、翌日の一面に見出しが躍っている!。

 紙面の半分を埋める打った瞬間の写真、此の時初めて自分の仕事を実感した瞬間だった…。



 今の車高の低いトレーラーじゃ絶対出来ませんからマネしないで下さい!。

 やる人が居るとも思えませんけど…。

 ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル


 あの時に無理をしなくても多分間に合ったでしょう<兎に角<早く!、早く着かなきゃ!>頭の中は其れで一杯、兎に角間に合わせなきゃ其の一念で本社迄走り続けたんです。


 其の時カメラマンから預かり届けたフィルムが翌日のスポーツ紙の第一面に成る事は解ってましたから、只夢中で走り続けた初単独乗務の日の事です。


只夢中で走り続けた初単独乗務の日

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