夢の中
最悪のタイミング?
「そう言う事なのか…、話をしても眼を合わせる事も無いし、話しぶりから所帯持ち見たいな事を言ってたから其れは在り得ないと思ってたが…」
思った事を声に出していた、是は聞えないと意味が無い、柊に罪は無い、罪の意識は持たなくて良い。
「XTを見せて下さいと言われてな…、ホントに嬉しそうに見てるんだ、正直変わった人だと思ったよ、お前も判るだろあんなに傷だらけでボロボロのXTをだぞ?」
「あのXTを?」
やっと柊は顔を上げ視線はXTに注がれる、表情に疑問か浮かんでる、まぁXTの見た目は其れ位の状態だって事だ。
「俺の仕事はシフト制だろ、休みと日曜が重なると毎回XTを見せて下さいってずっと見てるんだ、こっちはコースに出たくてウズウズしてるのにな!」
「毎回なの?」
「あゝ毎回だ、だからそんな素振りは全く無かったよ」
「でもあたし聞いちゃった…、それなのに言っちゃった…、言っちゃ駄目だったのに…」
又小さく為り声を殺して泣き始める…、どうすりゃ良いんだ…。
「そろそろ帰ろうか?」
「ごめんなさい、止めなかったら間に合ったのに、ごめんなさい…」
「もう気にしないで良いんだよ、気に病む程の事じゃないから大丈夫」
作った訳じゃない自然と口から出た、何故こんな事を言って仕舞ったのか自分でも解らない。
「オートバイの話がしたい時には、何時でもお聴きしますよ」
走り書きのメモ、メロンパンを放り上げた日にあの人の名前と電話番号を渡された、
旦那が居るのに流石に不味いだろうと電話する事は勿論無かった、
仮に電話をしていたら柊に出逢う事は無かった筈。
此れで永遠に連絡を取る事は無いだろう…。
「ほら帰るぞ!、置いて行っても良いのか?、俺達の家に帰ろう!」
「あたし達の家?、怒って無いの、汚れてるあたしが居ても良いの?」
其の言葉で顔を上げ、不安に満ちた顔。
「他に行く所が有るのか?、お前が帰れる処が?」
「何処にも無い、貴方のお家だけしかあたしが帰る処は無いの!」
泣き顔が少し明るく為り答えた、本当に幼子の様に。
しかし何でこのタイミングで二人が鉢合わせする?、タイミングが悪過ぎだろ?
疑問を抱えつつ自宅に向かった。道中何も喋って来ない、思い込むと悪い方へ進んでしまうのが此奴の悪い癖、早いうちに気持ちを切り替えさせないと。
「なぁ晩飯は有るのか?、途中で何か買って帰るか?」
待てども返事は返ってこない、しょうが無いな…。
「何か喰いたい物は有るか?、何でも良いぞリクエスト有れば俺が作るぞ?」
漸く返事が返ってきたが此奴の応えは何時も斜め上を行く。
「ご飯だよ?、お兄ちゃんが作るの?、ラーメン作るのと買って来たの温めるのしか見た事無いよ?、ねぇ子供作るのとは訳が違うよ!」
全く何て失礼な奴だ!
「信用しないなら一緒に作るか?、何が食べたい?」
「お肉、ハンバーグ食べたい!」
「一寸待てお前昼もハンバーグ喰って無かったか?」
「良いじゃん食べたい物は食べたいの!」
気持ちの切り替わりが早いのがこいつの長所。
それで気が晴れるなら良いか、思い込ませない事が何より一番やらなきゃ為らない事、此奴がまた悪い方に進み出さない様に。
「じゃあ横で見てろ。其れ位朝飯前だ!」
後ろで燥ぐ声がする、
弟妹達もこうやって喜んでくれてたな。
如何して居るだろうか?、随分長い間会って無いが元気にしているのか?
燥ぐ声にそんな事を思い出して…。
「赤ちゃん作ろ!直ぐ!」
食後の第一声が此れである、多分何も考えて居ない筈。
「お前まだ学生だろう、卒業してから考えれば良いじゃないか?」
何度言っても聞き分けがないな…。
「もう誰も言い寄って来なくなるもん!」
嫌ほっといても誰も来ないと思うぞ?。
<気持ちは解らないではないが、さすがに学生を孕ませる訳には…>
「やっぱりあたしじゃ嫌なんだ」
<埒が開かない。比べているのか?誰と?>
「誰もそんな事言ってないだろうに!」
<まあ良いか又変な方に進むよりは・・・>
「頑張ってお兄ちゃん♥」
我儘に付き合いますか…。
時間はもう直ぐ9時、昼頃には先方が到着と連絡を受けている、奴は未だ布団に包まり夢の中、安心した寝顔を見て起こす気も失う。
せめて綺麗に身支度させないと思い、昨日出来なかった洗車をして居る所だ。
彼方此方に傷は有り隠す心算も無い、せめて汚れ位は落として上げたかった。
磨き上げ小綺麗に為り俺がやってあげられる事も終わり後は先方を待つのみ。
伸びをすると欠伸が出る、段差に座り日差しがポカポカ温かい、又欠伸が出た処迄は覚えている…。
*****
「ヤッパリ2st見たいにパパッとは行かないか…」
昨日ボーリング屋から届いたパーツを前にクランクケースを割り格闘中。
耳に当てたドライバーに伝わるシリンダー内でピストンが首を振ってる微かな音、
ならばオーバーホール序にシリンダーボーリングとクランクシャフトの交換、
エンジンのリフレッシュと思ったのだが・・・。
DOHCで4バルブ、然もバルブは直押しでクリアランスはシム交換…、
まぁ手間の掛る事でも俺が初めて手に入れた4stだ、
仲良くしようなXT!
うつらうつらして懐かしい夢を見てた。
「あの娘は選らんじゃ駄目必ず不幸に為るよ。まだ間に合うから選ぶのよ!」
声を聴いた気がしてハッとして目が覚める、
優しい声だが厳しい口調、
座った所で転寝をして居たんだな。
<然し幾ら夢とは言えなんちゅう物を見るんだ?、まさかお前か?>
振り返る先にはXT、まさかと思い見詰めたが勿論何も語って来る筈も無かった。
気を取り直し寝ている馬鹿を起こすか!、引き渡しまで2時間を切った。
「そろそろ起きろお客が来るんだぞ!、何時迄寝てるんだ?」
「う〜ん…今何時?」
間の抜けた返事、此奴本当にマイペースだな…、まるで野良から飼い猫に為った猫だ。
時間に為り静岡ナンバーの車が停まる、降りて来たのは幸せそうな俺より少し年上のカップル、引き渡しと積み込みの手伝がXTに触れた最期。
記入済の譲渡証明と返納書類を一緒に手渡す、先方は直ぐにナンバーを取ると申された。
走り去るハイラックスを見送る、見えなくなるまで柊は手を振って居た。
<あの人達なら大事にして貰えそうだ、永く走り続けるんだぞXT…>
俺も見えなくなる迄見送った…。
此れで2台と別れる事に為りました、
寂しい限り二度と逢えませんから・・・。




