喰った栄養は何処へ?
喰った物は何処へ行く?
頭の中はパニック寸前、バイクの事なら大概の事を切り抜けられる。
何時かと同じ泣く娘を前にはそんな経験クソの役にも立たちやしない!
又やってしまった!
其の上最悪のタイミングでオーダーが運ばれて来る、周りのテーブルの食事が中断し聞き耳を立てている、でも違った是は年の功か?
「お兄ちゃん泣かせちゃダメでしょ?」
オーダーを運んで来た如何にもベテラン主婦と言った感じの女給さん、救いの手は外から文字通り運ばれて来るオーダーと共に!
「あらあらお兄ちゃんに苛められたの?、悪いお兄ちゃんだね〜」
態とらしさを感じさせず周りに聞こえる様に掛けられた言葉、其の言葉で一気に雰囲気が変わり、聞き耳を立てていた周りのテーブルでは食事が再開されてる、救われた兄妹喧嘩と思って呉れた様だ。
柊が店に入る時に『お兄ちゃん!』と大声で言ったのと『悪いお兄ちゃんだね〜』と俺に言って呉れた効き目が有った。仲の良い兄妹の他愛ない兄妹喧嘩で収まって呉れた。
<母は強し、一言で雰囲気を変えてしまうとは流石に敵わない〉
更に柊も泣き笑いし此方の雰囲気迄変わる。
「冷めない内に喰っちまおうぜ!」
「うん!」
声を掛けるとにっこり笑った。
よっぽど腹減ってたんだな、前と同じく綺麗に平らげ皿の上から消えて行く。
喰った栄養は何処へ行く?、
行って欲しい所へ何故行かぬ?、
人体の七不思議なのか?
「中々育たないもんだな?」
つい見てしまい更に言葉に出てしまう、柊の耳にも届いてしまう、視線に気づかれ怒り狂うと思ったのだが意外な答えが来る。
「お兄ちゃんがもっと頑張れば、一寸は育つんじゃない?、今でも良いよ!」
こんな場所でソレを言うか?、然も何で柊の瞳に今にも溢れそうに生っている?
「奥さんは何時でも何処でも旦那様に応える物でしょ?」
一寸待て周りに聴こえちまうだろ、折角さっき収まったばかりだろ!
「柊一寸待て!」
「あたしやっぱり嫌だ、奥さんに成ってママに成りたい!」
雫が頬を伝い始める…。
「お家でパパ遅いねって帰って来るの待ってたいよ」
テーブルに水滴溜まった…。
其の気持ちは何度も聴いて理解出来るが、何故に今是の場所とタイミングで其れを言うんだ?、一体何が有ったんだ?、ヤッパリ河川敷で二人に会話が在って其の結果あの場から逃げ出す様に帰って行ったのか?
怒らせて仕舞った訳じゃ無いのだな。
「あたしペットは嫌だって今日思ってしまったの、お兄ちゃんごめんなさい、ごめんなさい…」
周りに只ならぬ雰囲気が漂い始めて居る。
「後で話は聞いてやるから、もう出よう!」
立ち上がりレジに向かい会計を済ませる。
レジに立つさっきの女給さんが店中に聴こえる様に…。
「お兄ちゃんまた苛めたの、駄目じゃない!」
そう大きな声で言ってくれた、
店内の雰囲気が一気に変わる、やはり母は偉大だ!、そして柊に耳打ちする。
「大切な人は逃がしちゃだめだよ、絶対に手を離しちゃダメ!」
嗚呼この人は最初から兄妹では無い事を解っていた、其の上で柊を助けて呉れたのだと。
「有難う御座いました!」
頭を下げ俺は声にしていた。
「有難う御座いました、ぜひ又お越し下さい」
柊の眼を見詰め営業か本心かは解らぬが。
「頑張ってね、又おいで」
と・・・。
何方からとも無く振り返り二人してドアに向かって頭を下げた。
XTに跨り続けて柊も跨るが腕が躊躇い気味に廻される。
「未だ話しが或るんだろう?」
答える代わりに小さい手に力が籠る。
「真っ直ぐ家に帰るか?」
問うてみるが首を振る。
「だったら河川敷に戻るか?」
小さく頷いた。
今朝の約束通りゆっくりと移動、小さな手は必死にしがみ付いて居たが同時に震えていた。
河川敷に戻り何時もの場所に停め、堤防の上を顧みるが勿論何時もの場所に彼女は居ない。
多分此処には二度と来ないのだろう。
何が在ったのかは想像の域を出ない、本心は柊本人が言わねば意味が無い。
本人が決心しなければまた此の娘は悪い方へ揺らいで仕舞う。
バイクを降り、事の在った場所に二人で立つ、柊が言葉を紡ぐのを待った。
今回は程無くして言葉が零れ始める、先ずは謝罪の言葉から。
「森田さん御免なさい」
其の口から名を呼ばれたのは初めて、オッサンから始まりお兄ちゃん以外は。
「あたし本当に森田さんの事が好きです、ハッキリ判りました」
「柊?」
意外な言葉が紡がれる。
「大好きだったお兄ちゃんの代わりでも無く、懐いてる飼い主でも無いの!」
「今更何を言ってるんだ?」
「森田さんさっき逃げたでしょ?、あたしが怒ってるって思って!」
「まぁ地が出てたからな…」
ハイその通りです。
「直ぐにあの人堤防の上から下りて来た、そして如何して一緒に来たのって聞かれた、あたしがお兄ちゃんの事?って聞いたの、そしたら凄くほっとした顔してた・・・」
「どう言う事だ?、意味が理解らんぞ?」
「あたしの事を妹だと勘違いしたみたい、そして凄く羨ましそうにしてた…」
「一寸待て余計に理解らんぞ?」
「この人は森田さんの事を好きだって気が付いた、そして誰にも盗られたくないって気持ちが溢れ出してあたし約束守れなくなってた…」
しゃがみ込み声をあげて泣き始めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
そう延々と繰り返す。
「あたしみたいな汚れてしまった汚い子より、あんなに心の綺麗な人の方が良い筈だって、森田さんが選んじゃう、又捨てられるって思ったら恋人だって言っちゃたの、あの人此処に来ればきっとまた会える、だからずっと此処に通ってたって言ったのに、今度会えたら気持ちを伝えようって言ったのに…」
俺は何も言えなくなっていた、柊に掛ける言葉も見つからず・・・。
返す言葉が見つからない…。




