大人しい程怖い物!
コラ!逃げるんじゃねー!
今日も来てるんだな、何時もの場所で、何時もの様にコースを見つめ…。
一般的に国民の休日には堤防の上にCB50を停め、堤防の上からコースを見ていた、何が目的でコースを見ていたのかは結局判らず仕舞い、アレから随分時間も過ぎたが今もコースに通って居たんですね。
何度か話した事も有る、此のXTを何時も嬉しそうに微笑み、同時にXTに触れ涙ぐむ姿も見た…、近くで保育士をしていると言っていた。
会話の間眼を合わる事も無く、会話の中から汲み取れたのは御結婚されてると思われ、俺は他所様の者にチョッカイ掛ける程馬鹿じゃ無いよ。
或日破談に為ったと巻き貝の展望台で悔し涙で語られ、其の当人自身もそう信じていた人が居た。
長き旅にて其の傷心を癒し戻った矢先、奇為る縁で俺と出逢う、遠い昔に一度も顔を覧る事も、彼の地へ旅立つ姿を見送る事も、言葉を掛ける事も無く喪った弟、多分其の幻影を俺に重ねていたのだろう。
御互いが全て上手く行く筈だと信じて…、其れは全てが勘違い、早とちりの結果…そして…。
そんな事がホンの少し昔に在った、そんな俺は早々に脈無しと判断、唯、俺の乗る此のXTの何がそうさせたのかは解らない侭、其処だけはずっと気に為っていた。
今日も同じ場所に居られる、お互い気付いたがおまけで自称ペット迄も…。
「綺麗な人だね!あの人知ってる人?」
向こうが此方を見ているのに気付いてる。
「嗚呼、休日に走りに来ると何時も居るんだよ」
問われる儘に応えてしまう。
「お兄ちゃんの好みのタイプでしょ?、わかるんだよね~」
こう言う処にだけ柊コイツは勘が鋭い!。
堤防を下り何時も荷を置く場所に停め腰を降ろす、
すかさずねちっこく嫌味たっぷりに責め立てられて仕舞う。
「ねぇお兄ちゃ〜ん、あの人に振られたの〜」
「んな訳有るかよ!」
「嘘だよね〜、完全にタイプだもんね〜」
男なら憧れるでしょ、可愛い系の美人で母性に溢れた歳上の嫁さん、母性の象徴も豊かで然も安産型、その上保育士だとは最高の物件だと思いません?
申し訳ありません…、妄想が暴走して仕舞いました。
m(_ _)m
比べちゃイケないのは判っちゃ居るが、比べて仕舞う…、
視線が自然と柊の胸に行って仕舞う…。
「悪かったね!胸ちっちゃくて!」
視線を辿り嫌味たっぷりの棘の有る言葉が返って来る。
「無いには無いなりの需要が……」
何を言ってるんだ俺は!
冷たい視線がグサグサと突き刺さる、
此の儘じゃ後が恐い、
何とか挽回せねば為らぬ。
「折角此処に来たんだ、一周だけ廻ってくるよ!」
そう言ってコースに出る、実は妙案が浮かばず逃げ出したんだ。
「コラ!逃げるんじゃねー!、戻って来やがれ!」
此処暫く引っ込んでいた柊の地が出てしまっている。
戻る迄に頭が冷めて呉れてれば良いんだが…、
元の性格を知ってるだけに…。
コースに出る予定は無かったが期せずに廻って来たチャンス、今日此処で見た景色をしっかり刻み付ける為にゆっくり周る、テーブルトップを舐めるように飛んだ時視界に入る。
<何で二人が一緒に居るんだ?>
一周廻って戻った時に其処に居たのは柊一人。
堤防上を走り去って行くCB50の後ろ姿、
タイミング的には堤防を駆け昇らないとムリな筈、
一体何が有ったんだ?
<柊が何か失礼な事をしたんじゃないのか?>
当の本人は下を向いて眼を合わせない、間違い無い今から追えばなら間に合うか?、なら追って見るか?、XTへと身体を翻すが裾を掴んだ小さな手に阻まれる。
「ごめんなさい。でも行っちゃダメ、行っちゃダメめなの…」
一応確認はして置いた方が良いか…。
「お前あの人を怒らせたのか?もしくは失礼な事でも言ったのか?」
「今は言いたくない、お兄ちゃんここに居てお願い…」
小さく首を振り返って来たのは小さな声。
今は言いたく無いってか…、
迷惑を掛けて無いなら良いか、
XTを手放せばもう此処に来る事は無くなる、
XTに思い入れが在ったのだろうから手放したらもう逢う事も無いだろう…。
考えてもしょうが無い、腹が減った少し早いが飯喰って帰ろう。
「柊、飯食いに行くぞファミレスだけどな!」
「うんお兄ちゃんお腹空いた!」
漸く顔を上げてくれた。
「いらしゃいませ!」
景気のいい声が聞こえる。久しぶりに入る昼間のファミレス。
「二名様ですか?」
「お兄ちゃんと二人」
元気に答えた柊の機嫌は治ってる。
愛想の良い女給さんの笑顔、前に見た眼はゴ〇ブリを見て居る様な蔑む眼だった気がする。
仲の良い兄妹がご飯食べに来たと思って居るだろう、その娘は微笑む様な笑顔。
まあ如何見ても此奴は18には見えんし、私服だと良く見ても中〇生にしか見えん、こんなのでも制服を着ると女子高生に見えるのは制服は偉大だと言えよう!、仮にカップルに見えると俺がアブない奴だと思われてもしょうが無いよな、実際そうだけど…。
「さっきはゴメンナサイ」
「何がだ?別に悪い事した訳じゃ無いんだろう?」注文を済ませ届くのを待つ間に謝って来る。
「うん…」
「もしそうなら今からでもお詫びして置くが?」
無意識に右手が財布を触れる。
「あの人じゃ無くて、お兄ちゃんに謝らないといけないの」
「俺にか?何を謝るんだ?」
「あたし約束破っちゃった、恋人や奥さん出来ても何も言わないって…」
目が潤む。
「約束した、約束したのに・・・」
此処では不味い何時かの二の前に為る、然も真昼間で家族連れでごった返しの店の中、如何する逃げ場が無いぞ!、如何する?、何がある?。
オーダーした物も未だ届かず話を振替える事も出来ん、如何対処する?
考えたくは無いが若しかして此れは大人しいXTに恨まれた祟りなのか?、そんな言葉が頭を掠める…。
如何対処する?




