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壊れた玩具

 俺が未だ子供の頃に言葉を記録し、その同じ言葉(フレーズ)を繰り返すだけ、何が楽しいのかよく解らない玩具おもちゃが有った。


「お願い此処に居て、お兄ちゃんお願いだから此処に居て・・」

 眼の前に居る女の子は既に人間に見えて居なかった、まるで壊れて仕舞って新たな言葉を記録出来無いその玩具。

「御免ね、君がどう呼ばれて居たか知ったんだよ」

 ビクッと身体が震え止め処無く続く言葉が止った。


 あの晩のファミレスの一件がバイトの後輩に伝わり、その件で話が在ると呼び出された。

「あの娘『イエローキャブ』や『サセ娘』って言われてるんですよ!、何でそんなのと付き合ってるんですか!、直ぐに止めて下さい絶対碌な事に為りません!」

「其れは…」

「抑々あのお姉さんは如何したんですか?、俺絶対結婚式に呼ばれると思ってたんですよ!、攫って行かれて本当に悔しかった…、けど何時も疲れた顔で寂しそうに笑っていたあのお姉さんが…、あんなに嬉しそうに笑う所を見たら、先輩ならってしょうが無いって思うじや無いですか!」


 乗務が終わり遅い時間だったが奴も、奴の母親も快く迎えて呉れた、奴の家で旅立つ寸前のバイクを此の世に引き止めたあの日、俺が単身上京した事を後輩から聞いた後、俺が顔を出さなく為った事を奴の母親も心配していた、本当に世間は狭いと感じる一幕、奴の母親は俺が幼少過ごした街の出身、同郷から単身上京して来た田舎者を心配して呉れたんだ。


「時間ば気にせんで良かけん、家でゆっくりして行けば良かよ…」

 その言葉が有難くて、こんなに離れた土地で懐かしい故郷の言葉が聴けたのが嬉しくて、素直に奴の言葉を聞いて居たんだ…、でも人は変われる…。

 辛い想いを心の奥底に仕舞い込み、辛くも永い時間を懸けて己を変え立ち上がる、そうやって変われた者を俺は知っている…、この娘も変われる筈だと信じていた。


「君がしていた事を聞いても君の思いを聞いて傍に居てやればきっと変わってくれる、そう信じて居たんだ。でも俺が必死に駆けて居る時に君は何をして居たんだい?、俺が想像して居る事を俺の言葉で言って欲しいのかな?」

 此方を見据えて震えている。

「・・・・・・・」

「そうか答えてくれないか、では是迄だね此処でサヨナラだな」

 次々頬を伝い、和室の部屋の畳に染みが出来始めて居る、薄く開いた唇からは何も零れて来ない。

「短い間だったけど今迄楽しかったよ、ありがとう、お願いだから俺が帰るまでに君の痕跡を消して置いて呉れ、俺の最後のお願いだ此れ位は聞いてくれるよね?」

「………」


 何も応えては呉れないのか、しょうが無いか…。

「それじゃもう会う事も無いから」

 仕事用のメットに手を掛けた腕を掴まれる。

「ゴメンナサイ、家族が楽しそうに会話していたのに私が顔を出すと会話が途切れる、そんな家に居てお兄ちゃんの居ない夜が辛くて…、街に出て知らない人に抱かれてきました…」


 零れて来たのは想像通りの言葉だった、見開いた眼で紡ぐ声は震えていた。

 <嗚呼、奴の言っていた事は正しかったな…>

「もう良いんだよ、済んだ事さ」

 優しく声をかけ一瞬顔に笑みが戻った気がした。


「もう全て終わった事だよ、もう此処からは何も始まらない」

 表情が凍り付いた。


「多分君は一生懸けても変われない、又同じ事を繰り返す筈だ」

 掴んだ手を優しく外して上げる。


「今の君の儘じゃ君と同じ様な子供が出来る筈、其の子も君と同じ様に父親を知らない子供に為る、だから其れを防ぎたかったんだが悪かったね俺じゃ力不足だったんだよ、期待させてしまってゴメンな!謝るよ」

 諭す様に声を掛けていた。


 異常に息が速く為っている。

 <是じゃ過呼吸に為ってしまうな…>

 落ち着かせる言葉を探す…。

 でも受け入れる言葉じゃない言葉フレーズを探していた。


「是からΓで海迄行こうか、初めて行った所だよ、オンロードバイクで行きたがってたよね、今度は怖い思いさせないからさ」

 落ち着いた見たいで眼が丸く為って居る、でもゴメンな君の期待とは違うんだよ。


「是が君と最後の小旅行(ツーリング)、大丈夫だよ今日は優しく走って上げるから」

「いやだ、いやだ、私の馬鹿どうして待ってられなかったの、どうして」

 その場に泣き崩れた、間違いなくこの子は何処へ行っても、誰と付き合っても結果は同じだろう、24時間付きっ切りで傍に居て上げない限りは同じ事を繰り返す、俺にそんな事は出来やしないし、荷が重すぎて何もしてもあげられないよ。


 突然泣き声が収まりそして顔を上げた、その瞳は狂気を湛えていた。

「そうかあたし馬鹿なんだよね、こんな馬鹿なんだもん人間じゃないよね、そっか…」

 突然何言ってんだ?、此奴如何したんだ?、続いて出て来た言葉は俺の理解を超えていた。

「お兄ちゃんにお願いが有るんだけど」

 立ち上がり此方に向かって来た・・。


「もう、恋人とか、奥さんにしてとか言わないから、あたし馬鹿でしょ?、躾されて無いからご主人様の言う事聞けないのよ!、だから躾てよそして飼ってくれる?、ペットで良いから傍に置いて、誰とでも寝ちゃう馬鹿な牝猫だから、傍に置いて馬鹿な事しないように躾てよ!、お兄ちゃんお願い!」

 何を言ってるんだ?、ペットだと?、そんな事出来る訳が無いだろ!



「良いよこの身体好きな時に好きなだけ使って、ゴメンね色んな人に使われた駄目駄目な中古だけど、最後迄使って貰った貴方だけだし、此の口ともう一つの場所は新品だよ?、其処も使って良いからね、お願いあたしをペットにして下さい、お兄ちゃんに恋人が出来ても奥さんや子供が出来ても恨みません、たからお願い飽きて捨てる迄傍に置いて下さい、お願いお兄ちゃん…」

 其の時の言葉は真剣だった、狂人か?それともその振りをして居るのか?


 のぞき込む見上げた顔は正気な儘だ、如何して、そこ迄拘る?それなら別の者でも良いじゃないか?今迄も同じ事をして居ただろう?、何故・・?


 解らない…。

俺には解らない?

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