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雪の日でも 

「了解!」

 

 雪がチラつき始めたが未だ動きは無い、締め迄の残り時間は一時間ちょい、先発で来ていた村上先輩は地方版の分を持って既に本社に届けているだろう。配送時間に制約が在る為地方版は印刷の関係で締めの時間が都心版より早い、現時点で解って居る記事とフィルムを待ち村上先輩も時間ギリギリ迄現場で待っていた様だ。途中ですれ違った先輩のVT‐Zは気合が入った走りをしてすれ違う時此方に気付き左手を小さく揚げていた、他社の連中も同じ様に気合を入れて各本社を目指しエンジンに鞭を呉れていた…。


「不味いな…」

 天候は悪い方に変わり路面が黒くなり始める、此の状況じゃアスファルトに沈んでいた油やゴミが表面に浮いて来る、雨ならば或る程度降って呉れば表層に上がって来た物は流れてしまい多少条件は良いのだが、此のチラつく雪に其れは期待出来ない…。


「そろそろ掛けて置くか…」

 これ以上止めて置くとエンジンが冷め切って仕舞う、他社も同じ考えの様で皆も相棒のエンジンを掛ける、其れから5分程経っただろうか?、一気に動きが有った。


「確保!」

  と警官の声が上がり一斉にフラッシュが眩く、焚かれたフラッシュで昼の様に明るくなる。

「頼む間に合わせて呉れ!」

「了解!」

 記事とパトローネを受け取り暖気の済んだVTが唸りを上げ本社を目指す、一気にスロットルを開け加速するが路面は黒く変わり、ハンドルとシートから尻に伝わる手応えは悪い、残り時間は既に一時間を切って居る・・・。


 想像通りタイヤの食い付きが悪い、少しだが予想ラインにズレが出始める、時間にも余裕は無くギリギリの走りに為らざるを得ない。残り時間と現在地、そして時間から凡その走行車両数を弾き出す、チラつく雪コレが曲者、通常此の時間では渋滞は発生しないが駅周りへ送迎車両が発生する、其れを考慮し最速ルートを弾き出す…。


「しまった、気付くのが遅れた!」

 ルート計算で現在の周辺施設への配慮が疎かに為る、左車線三台前の車両の中で助手席に居る者が右前を指差している、運転手も其処を見ている、視線の先はファミレス!、中央寄りの車線を走る俺の前に前走車両は居ない、御丁寧に丁度その部分の中央分離帯も切れている。


「来る‼」

 予想通り左車線から右折かけてきやがった!

「糞ッタレ!」

 大台からのフルブレーキング!、右二本の指からロック寸前!、リアも爪先から同じサインを受け取る。

「例え一キロでもその瞬間迄速度を落とす、諦めたら其処が終わり!」

 エンジン壊す覚悟でフルブレーキ状態でシフトダウン、落とす度リアタイヤから悲鳴が上がる。

「キュン!、キュン!」

 シフトを落とす度にタイヤの鳴く声がする。

「エンブレならリアのロックは免れる!」

 勿論此の頃のバイクにABSなぞ着いちゃいない、ギリギリの其の瞬間迄速度を落とす!、次のチャンスを掴む為に。併せて乗用車のような音色のVT‐Zシリーズに装備されたの高低ダブルホーンが鳴り響く・・。


「其処から動くなよ‼」

 右折しかけた車は俺の進路を立ち塞がる様に止まった。

「行ける!」

 リアを流し車と平行に生ったと同時にスロットルオン、鼻先を掠め更にリアをロックさせ逆に車体の向きを翻しスロットルオン!。


「何してやがる此のボケがっ!」

 怒鳴り駄賃にフロントに一発蹴りを入れ、後は本社を目指すだけ時間ギリギリ全速で本社まで駆け抜けた…。


 乗務を終え自宅に到着したのは日付が替わる少し前、雪のチラつく中をゆっくり安全運転で…。


「疲れた明日は貴重な休みゆっくり寝よう‼」

 冬用装備のウインターブルゾンとオーバーパンツを外しただけ、トレーナーにジーンズの服装の侭布団にダイブし、その後の記憶は無い…。


 今日は久々に日曜日、昨日の疲れも在り何処にも出掛けずゴロゴロゆっくり寝てるつもり、外は日が差し明るく成っていたが其の侭布団で惰眠を貪る。


 10時頃にカタンと玄関で音がした。郵便かな?と思う確かもう直ぐ地方選が有るから其の投票案内関係だろう、此処に届く便りなど公的機関からの車輛の納税用振込用紙位しか届かん、此の仕事に就くまでは全く我関せずだったのにそんな事も頭に浮かぶとは職業が替ると意識も変わるのか…、そんな事を思い浮かべ其の侭寝ていたのだが走り去った音は郵政カブでは無く車の音…。


 昼前にのそのそ起き出し何か胃に入れるかと冷蔵庫開けるが中身がほぼ無い無残な状態、朝飯?昼飯?にも困る冷蔵庫の内容物…、午後は買い出しに行かないと飢え死にしちまう、買い出しリスト作るかな…。


 そろそろ出掛けるかと玄関へ向かう、其処に少し幅広の封筒が落ちている。家には玄関ドアに受け口があるだけで郵便物は床に落ちてしまう、今朝届いたのはコレか?、拾い上げると其処には住所の記載も無く、俺の名が書かれただけの封筒。


「何で俺の名前だけ?」

 其処で気が付いた。


「悠美が此処に来たのか?、何故声も掛けずに…?」



 雪の日でも余程の大雪でなければ出動は掛かります、勿論夏タイヤで。その時ばかりはオフ車が羨ましく思いました、契約社員なら車両換えて出勤出来ますが、私は貸与車両なので車両の交換は出来ないです、『早く一人前に成って車両持ち込みの契約社員に成ろう!』とXTが在るからそう思っていた・・・。


「何で俺の名前だけ?」

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