「痛ててて…」
言葉の端々に威厳が…
あの日何も告げずに俺の前から姿を消した悠美、仲違いするような事は何も無かった。
お互いに相手の事を思い其々が釦を掛け違っただけの事、障害が消えた今ならば笑って元に戻れる筈、今は未だ其の可能性は捨てずに置こう、ハッキリと告げられるその日迄は。
ふとバイクの方に眼を向けるとさっき迄あんなに嬉しそうだったのに俯いてる、手はXTのシートに触れて哀しそうな顔をした儘で微動だにしない、一体如何したんだ?。
とは言え何が有ったのか、此処に来る理由すら判らない俺には掛ける言葉も見つからない、暫し其の姿を見守ると一つ頷き顔を上げ此方を振り返る。
振り返る顔は最初に見た時の笑顔に戻って居る、ならばその事に気付かぬ振りをして置こう、其れを望まぬから笑顔で振り向いたのだろうから。
「有難う御座いました!」
戻って来るとそう言われたが…。
「いや俺は何もしてませんけど?」
「XT見せて貰って嬉しいんです♥」
「そうですか?、結構傷だらけでこう言っては何ですが見た目はかなりのボロでしょ?」
「其処が良いんですよ♥」
「はぁ?、まあ満足して貰ってるなら良いんですけどね」
「又此処に来てくれますよね?」
「当面の間は練習に通うつもりですが…」
「その事は又XT見せて貰っても良いですか?」
「構いませんがそんなに其のXTが気になるんですか?」
(。ŏ﹏ŏ)…
「そんなに困った顔しないで笑って下さいね!」
「其れじや又走って来ますんで」
「ハイっ♥」
一体何なんだろうな…、全く訳が判らん、等と余計な事考えてるから早速テーブルトップで着地失敗、ド派手にフロントからスリップダウン…。
「痛ててて…」
幸いにコースの端で止まった俺の上をモトクロッサーが飛び越して行く…、走路の中央じゃ無くて良かった…、少しズレてれば飛んで行くモトクロッサーの着地地点に重なる、幸い近付くライダーが無く直ぐに起こして脇に寄せエンジンを掛ける、テーブルトップはコースの中程なので半周廻って元居た場所に戻る。
エンジンを止めて身体のチェック、幸いに外傷は無く打ち身位か?、続けてバイクのチェック此方も無事だが傷は増えたけどね…。
( TДT)アア…
「怪我して無いですか!」
慌てた声が聞こえ振り返る。
「大丈夫ですよ、転び馴れてますから」
「一寸見せて貰いますよ!、怪我してたら手当しますから言って下さい?」
「厭々其処までして貰う訳には行かないでしょ…」
「我儘言わない!、ホントに男の子は大きく成っても子供と変わらないんだから!」
٩(๑`^´๑)۶
「別にそう言う訳じゃ…」
「我儘言わないの!、そう言う所が子供って言うんです!、詰まんない意地張らない!、其れじや私が見てる園児達と何も変わらないでしょ!」
「アレ?先生なんですか?」
「そうですよ、保育士ですから子供の怪我の手当は当たり前の事です!、よ~く判りましたか其処の大きな男の子!」
厭々先生だったとは怒られる言葉の端々に威厳が…、先生って名前が着くと皆こんなん生るんかな?、だけど何でこんなに俺に構うんだ?、増々持って訳が解らんぞ?。
「大きな男の子って…」
「ホントに怪我して無いのね?」
「大丈夫ですって!」
「なら…良いけど、怪我したらちゃんと言ってね?」
「はぁ…」
「お返事は『ハイ!』でしょ?」
「ハイハイ判りました」
「ハイは一回だよね大きな男の子!」
「ハイ!」
「ハイ良いお返事!」
「参ったな…」
「何か言った?」
思わず首をブンブン振った、まるっきり子供扱いかよおっかないな此の人一体何者なの?、何でこんなに構って来るのか意味が判らん…。
さてどうするかな…、此の儘気も漫ろで走ってると又やっちゃいそうだし、今日はコレで切り上げて帰るか?、明日も仕事だしホントに怪我して乗務出来なくなって先輩達に迷惑掛ける訳には行かないしな…。
「其れじや今日はコレで終いにして帰ります」
「もう帰るんですか!、未だ昼を回った位ですよ?」
「確かにそうなんですけど、此の儘コース出ちゃうと又派手に転んで怪我しちゃいそうですし、怪我しちゃうと明日バイクに乗れませんからね」
「明日もバイクに乗るって?、明日も此処に来るんですか?」
「厭々、休みは今日だけで明日から仕事ですよ」
「明日から仕事?」
(・・?
「そうですけど何か可怪しいですか?、先生も明日はお仕事でしょ?」
「そうですけど…、明日もバイクに乗るって言いましたよね?」
「えぇそうですけど?」
「バイクに乗るって…、明日はお仕事…、判った!お巡りさんなんだ?」
「お巡りさん?、私が?」
「違うの?」
「厭々、普通に民間企業勤めですよ」
「白バイじゃ無いの?、でもバイクに乗るって…」
そっか仕事でバイクに乗るって普通は白バイ隊員って思うよな、だからお巡りさんて聞かれたのか、納得行った!。でも白バイ隊員は希望しても俺の歳じゃ未だ派出所勤務等で実績積まないと成れ無い筈だよな…、って事は俺は何歳だと思われてんだ?
( ゜д゜)ハッ!
「バイクに乗るのが私の仕事ですよ、其れじや今日はコレで帰りますね!」
「そっか帰っちゃうのか…、又此処に来てくれますよね?」
「練習しないとなりませんから、暫くは休みに通う事になりますね」
「其れじゃ又其のXTを見れますね!、私は小林って言います!」
(#^^#)
「其れは構いませんけど、此のXTがそんなに気になるんだ…、あっ俺は森田って言いますね」
「そっか森田くんって言うのか、其れじゃまたね!」
言い終えると小林さんは堤防を登って行った。
其れじゃまたねって?