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間話 狂気の保護者

(side秀斗)


「っクソがッ!!!!」


 大きい音が部屋に響く。


「落ち着けよ、秀斗」


「っ………わかってる」


 分かってるよ…そのくらい。


「はぁ……そろそろ寝たらどうだ? 隈ひでぇし、もう3徹だろ? そんなんじゃ見つかるものも見つかんねぇ」


 俺にそう言うものの、轟の目元にも濃い隈がある。


「……人のこと言えるかよ。 狩真が消えてもう3日だぞ?」


 狩真がなんの痕跡もなく消えて3日。いくらなんでもおかし過ぎる。


 メッセージを送ってもなんの返事もない。既読にすらならない。


「秀斗、お前はどう捉える?」


「どう、とは?」


「この件について、私は誘拐、もしくはそれに準ずるものだと思ってる」


 誘拐、か……


「どちらかというと、神隠しのほうが近いかもな。誘拐だとしたら、あまりにも不自然すぎる」


「確かにな」


 狩真が居なくなった状況、不自然の塊だった。 部屋に何者かが侵入した形跡も無ければ、争った形跡も無い。玄関も含め、鍵は全て閉まっていたし、破損も無かった。狩真が帰宅してから、誰一人として狩真の部屋に近付いたヤツは居ない。


 近くの防犯カメラも全部調べ上げたが、不審なヤツは一切映ってなかった。


「一切の痕跡も残さない完全犯罪、ね…………魔法でもあるまいし」


「魔法、ね。ところで秀斗、少しこれを聞いてくれ」


 轟がノートPCを開き、何かの音声データを見せてきた。


「あ?なんだコレ。なんの音声だ?」


「狩真の部屋に盗聴器を置いててな。その音声だ……………何だその目は」


「…何も言わないでおいてやる」


「まぁいい。…………んで、ここだ。ここから30秒のノイズがある」


「そして、このノイズが無くなった後、狩真の寝息が聞こえなくなる」


「………つまり、狩真はこの30秒で拐われたと?」


「そうなるな」


 30秒で誘拐だと?そんなの、尚更なおさら不自然だ。


 現実的に考えて、そんなの確実に不可能だ。盗聴器は何かしらの電波妨害があったとしよう。だがたった30秒で部屋を一切荒らすことなく狩真を誘拐しマンションの15階から出て行くなんてどう考えても無理だ。


 しかも狩真のマンションは全室オートロックだから鍵のかけ忘れなんて無いし、そもそもカードキーなんだからピッキング云々じゃどうにもならない。管理会社も問い詰めたがカードキーは予備も含めて全てあった。


「他にも、狩真のスマホのGPSも一切の反応が無い。履歴を辿ってみても、このノイズが入ったのと同時刻、突然途絶えている。狩真の部屋でだ」


「常識的に考えて、あり得ないだろ。不可能だ」


「ああ、そうだな。でも、もし相手が私たちの思考が及ばない技術を用いていたら?」


「…………そりゃ、まぁ……無くは無いかもしれないが……もし仮にそんな技術が使われたとしたら、国家ぐるみの誘拐じゃないか?一個人でそんな技術なんて……」


「そういう事。私たちはそんくらいヤバいのを相手しなきゃなんねぇかもな」


 何の根拠があってそんな突拍子もないことを………いや、そう切り捨てるのは下策だな。


 現に理解のできないことが起こっているんだ。ゼロじゃない以上、その可能性も考慮すべき……


「秀斗、思考の沼にハマるなよ」


「……悪い。……だいぶ弱ってるみたいだ。少し寝る」


「わかった。んじゃ、私もそうしよ──「轟」ん?」


「なんでお前の足元、そんな光ってんだ?」


「あ?何言って──なんだこれ?って、アンタのとこも!」


「なっ!?」


 なんだこれっ…一体何が!!クッソ!!光が強い!


「お、い!秀斗!!こっち寄れ!!」


「ああ!!」


 轟に手を強く掴まれる。そして──


「「っ!!?」」


 俺と轟は、光に呑み込まれた。

________________________________________________


「……っは?」


 体感にしておおよそ30秒程か、それくらい。ようやく光が収まって目を開けると、全く知らない場所にいた。


「おお!!成功だ!これで我らにも希望が!!」


「ようやく奴らに目に物見せる時が!!」


 何なんだこれ……一体どうなって……っ轟は!?


「轟!!無事か!?」


「ああ、無事だ」


「にしても…一体何なんだこれ……何が起きて……」


「逃げる準備だけしろよ、轟」


 あたりを見渡せば、かなりの数の甲冑を着た奴らが俺と轟を囲んでいて、更にその外側に数十人の軍服らしきものを着た奴らが奴らが立っている。


「はっはっは。落ち着け皆の者よ。救世主殿が困っているではないか」


 声のした方を見れば、一際(ひときわ)派手な装束に身を包んだ男がいて、装飾がなされた大きな椅子に座っていた。


「うぉっほん!!それでは、改めて自己紹介でもしようかの」


 男はわざとらしく咳払いをし、無駄にデカい声で言い放った。


「我が名はサウノス帝国皇帝、ヨクニクス・ダル・サウノスである!!」


 言い終わると同時に手前の甲冑たちが足音を鳴らし、拍手が起こった。


「ほっほっほ、よいよい。さて、救世主殿、貴殿の名を伺ってもよいかな?」


「秀斗」


「………相手が何者か、目的、ここはどこか。わからないことが多すぎる。こちらの情報を一方的に開示するのはリスキーだ」


「大丈夫、問題ない」


 ホントか?さっきからコイツピリピリしてるし、嫌な予感しか———


「これは一体何の茶番だ?状況を説明しろよ愚図が」


「「「「…………………」」」」


 マジでやりやがったコイツ。


「なっ、…ぐっ、ぐぐぐぐぐ…!?」


 ほら、王様(自称)がびっくりしてるじゃん。


「貴様!!王に向かって無礼だぞ!!即刻撤回しろ!!!」


「いやいや、無礼なのはそっちだろ」


 おいやめろ!それ以上口を開くな!話が拗れる予感しかしない。


「いきなり全く知らない場所に呼び出した挙句、自慢したいのかなんなのかわからねぇが、茶番じみた自己紹介しやがって。順序が違ぇだろ順序が」


「おい、もうそのへんに───」


「常識も知らない、冷静な判断もできない、そんな奴が一国を治めるだと?国民が可哀想でしょうがないねぇ」


 あっ、これもう暴君スイッチ入ってるわ。だめだこりゃ。こうなったら狩真ぐらいしか止められないわ。


 あと、出会って間もない相手に悪口を言うのは狩真に嫌われるぞ。


 などと考えていると、1人の甲冑が大股で詰め寄ってきた。


「貴様ァ!!黙れと言っているだろう!!!」


「言われてねぇよ」


「何様のつもりだ!!こちらが下手に出ていれば、いい気になりおって!!!貴様らは黙って我らに従っていればいいのだ!!」


 ……うん。めんどいな。轟の顔を見れば、めんど、怠、キッショ、などがありありと伝わってくる。


 轟が(おもむろ)に脚を上げ──


「何も考えるな!!貴様の無駄な思考など必要ないのだ!!貴様に権利などない!!わかったか!!それがここでの貴様らの──」


 真下に振り抜いた。

 

 ズガァァァァァン!!!!!!!


 轟音と共に砂埃が舞い上がった。


「…えっ?」


 えっ?


 砂埃が晴れれば、そこには石造りの床にめり込んだ甲冑と、その上に脚を乗せている轟がいた。


「はぁ?」


 いやなんでお前がビックリしてんだよ。


「いやっ、おま、轟………いつからそんなに……」


「おい秀斗。何でそんな化け物を見るような目で私を見る」


「いや、どっからどう見たってバケモンだろうよ!俺の知ってる人間は、甲冑を床ごとぶち抜ける種族じゃない!」


「私だってビックリしてるわ!!ヤバいどうしよう……こんなんじゃ狩真に嫌われる……」


「それはもう手遅れじゃ─「あ?」何でもありません」


 ……………にしても、見事に場が凍りついたな……行くしかないか。


「轟、あとは任せろ。つーか絶対喋るな」


「保証しかねる」


 しろよ。………まあいい。


「ああー、どうもすみません。突然の状況に少し気が動転してまして」


「あ、ああ!そうだったか!いやはや、こちらも少し礼節を欠いてしまったな!すまぬすまぬ」


 うん。欠きに欠いたな。


「いえいえ。こちらこそいきなりの出来事で、少し気が動転していました。詳しく状況を説明していただいても?」


「もちろん!」


「まずは何から話そうか……」


 またわざとらしく深刻そうな表情をつくり、話し始めた。


「今、この国は戦争中でな……何とも苦しい状況にあるのだ」


「民は飢え、日々戦争の恐怖に怯えるしかない。余はそんな民を見るのが苦しい。民をなんとか──」


「長い。早く本題に入れ」


 コイッツ!!!!黙ってろって言っただろ!!!


「なんだよ。しょうがないだろ、長いんだから」


「……………」


「う、うぉっほん!そ、そうだな。では単刀直入に、この国の戦力として、一緒に戦ってはくれぬか?」


「……それはどうして?」


「先も言った通り、この国は隣国との戦争中でな、相手もかなりの兵力がある。我が国は少しずつ状況が苦しくなっていてな……」


「我らは何としてもこの戦争に勝たなければならないのだ!!頼む!この通りだ!!」


「そうですか。ではその件ですが」


「断らせていただきます」


「お、おお!そうかそうか!引き受けてくれ……?い、今…何と…?」


「断らせていただきます、と」


「な、なぜ!?」


 なぜって言われてもな……メリット無いし。


「こちらに得がないので」


「な、ならば金を用意しよう!!地位もやる!これでどうだ!?」


「断らせていただきます」


 まさに絶句、そんな感じの表情だ。


「何が足りない!?そうだ!戦争に参加してくれたならば、未来永劫望むものをやろう!何でもだ!!これならばいいだろう!?」


「だから断るって」


「何が不満だというのだ!!これだけ条件を提示しているのだぞ!?断る理由などどこにも──」


「ではこちらから質問です。先に戦争をふっかけたのはどちらですか?」


「それは、相手国からで「本当に?」っ」


 この王様(自称)、言動があからさま強欲だもん。


「あなた、嘘つくとき声張り上げる癖ありますよ」


「なっ、そんなこと一度も言われたことがない!!」

 

 チョロいわ。よくこんなんで一国治められるよ。


 でもまぁ、凡そわかったな。大体、このおっさんが欲かいて戦争ふっかけたら、相手が想像より強くて困った挙句、俺たちの召喚、ってとこかな。轟もそう考えてるっぽいし。


「貴様!いい加減に──」


「おい!やめよ!!」


 背後から1人の甲冑が殴りかかってくるのが視えた(・・・)


 やけに遅い。まるでスローモーションだ。


 振り向くと同時に、右脚を甲冑の側頭部目掛けて、振り抜いた。


 つま先が兜を歪ませ、めり込み、そのまま甲冑ごと吹っ飛ばした。甲冑は地面で数回跳ね、壁に衝突して止まる。


「ゑ?」


「人のこと言えねぇじゃん」


 俺、…いつ人間辞めたっけ…?


「「「「「………………」」」」」


 さっきより数倍凍りついてる……


「ごほん、すみません。つい、条件反射で」


 今、この場で一番上にいるのは俺と轟。つまり、多少の無理難題を押し付けることもできる。まぁ、一つ気がかりなのが、あの玉座の真横に立ってる豪華甲冑。あいつは間違いなく強い。


「では……そうですね。いくつかの条件を飲んでいただけるのなら、協力するかもしれません」


「……………う、うむ。わかった」


 はい言質取ったり。


「では一つ目──


__________________________________________________________________________________________


「本当にあんな条件でよかったのか?もっとふっかけられただろ」


「まぁな。でも、アレ以上の条件を求めた場合、俺らに対する反感はかなりのものだろうな。それに、あの豪華甲冑。あいつは強い。あの場で切り捨て御免なんてされたら、元も子もないからな」


「そうか」


「…………」


「…………」


 そこから5分ほど、無言で歩き、あるところに着いた。


「なかなか広いな。ここなら十分そうだ」


 訓練場。さっきの甲冑の1人に案内させた。


「そうだな。んで、形式は?」


「疲れてるし…一本先取の組手。手加減なし」


「わかった」


 久しぶりだな、轟との組手。最後にやったのは…高1の時か。10メートルほど距離をとり、お互い相手を見据える。


「「………………」」


 静寂が辺りを支配し、緊張感が張り詰める。息を吸って───来る!


「シッ」

 

 轟が短く息を吐き、その姿が掻き消えた。──下っ!!


「ん゛ん゛!!」


「っぶね!!」


 轟の大振りの右回し蹴りを、スウェーして躱す。馬鹿げた威力を持った脚が顎を掠め、風を起こす。次っ!!


 回転の勢いそのままに胴体への正拳突きっ!!


「ぐっ」

 

「おいおい秀斗!!手加減してんのかぁ!?」


 コイツッ!!なんて馬鹿げた威力……ガードの上からでこの威力…


「して、っねぇよ!!」


 もう一つ飛んできた左拳を受け流し回転を加え上段蹴り入れる。


「がっ!?」


 そのまま屈み、真下から顎に掌底を放つ。


 お互い一旦距離を置く。


「おい…轟…お前、やっぱ人間卒業してるよ……あの正拳どうなってんだ?」


「アンタも、どんな体幹してたらあの体勢から蹴れるんだよ」


 ……やっぱり、俺も轟も元の世界からでは考えられないほど身体能力が飛躍的に上がってる。


「くくっ」


「はははっ」


 ああ、どうしようもなく楽しい。今の一瞬のやり取りだけでもアガってきた。


「行くぞ!!秀斗」


「来い!!クソゴリ「死ねっ!!」らぁっ!?」


 轟の拳が顔面にクリーンヒット。無事十数メートルほど俺の体は吹っ飛び、後ろの壁にぶち当たる。すぐさま駆け出して、飛び蹴りを入れる。


「フッ!!」


 カウンター。放たれた轟の打ち下ろしに右拳を合わせる。


 受け流し、避け、その合間に上段、裏拳、掌底、前蹴り。できるだけいろんな箇所に打ち分ける。隙を見せず、隙を見逃さず。ほんの一瞬、それが命取りだ。


「ぁぁああ!!」


「せぁああ!!」


 いつしかお互い足を止め、打ち合う。


 何だ?何なんだ、この高揚感は。俺の身体の奥底から何かが溢れ出る。それは血管を通り、骨に染み、筋肉に行き渡り、体表にまで滲み出る。感覚が研ぎ澄まされていく。


 轟にも似たような何かを感じる。コイツの身体の表面に薄い膜のような、けれども大きな力の流れを感じる。眼を見れば、俺と同じように高揚感、そして闘争心が見えた。


「フッ、はぁあああっ!!!」


「ぅ、っらぁああ!!」


 轟放った正拳、俺の放った掌底。体表の力が一点に凝縮される。凝縮された力同士がぶつかり合い、さらに凝縮され、弾けた。


「「っ!?」」


 俺と轟の身体が吹っ飛び、壁に激突した。


「…………………」


「…………………」


 静寂が辺りを包み込む。


「………くくっ」


「………あははっ」


「「あははははは!!」」


「なんだぁ?最後のは!まるで魔法だなぁ秀斗!!」


「だなぁ。アニメの世界にでも入ったかと思ったぜ。こんなに楽しかったのは久しぶりだ」


 そして高揚感が収まると同時に得た確信。


「いる、よな。この世界に」


「ああ、いるな」


「「狩真が」」


 この世界に来て2時間。何かが引っかかっていた。そして今確信した。


 狩真は、この世界にいると。


「この力があれば護れる」


「でも、まだ足りねぇよな」


 もう二度と離さない。待ってろよ、狩真。



〜ちょっとしたキャラ紹介〜

津世井(つよい)秀斗(しゅうと)


 狩真(かるま)の過保護者その1。

 

 幼少期から狩真のことを知っていて、いつしか狩真沼に頭から飛び込んでいた。狩真が自分の与り知らないところで何度も傷付けられ(物理)守らねばと固く決意。


 基本何でもできる完璧超人。


 狩真レーダーLv5(その場にいるか居ないかがわかる)を搭載してる。異世界に来て効果範囲が広がった。


(はたがしら)(とおる)


 狩真の過保護者その2。


 初めて狩真に出逢ってから即落ち2コマした。何度か目の前で狩真がボコられており、その度にブチ切れ散らかしてきたお転婆デストロイヤー。狩真レーダーLv5を搭載

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