四話 召喚初日、不穏な現実
「ぅ……ん…ふわぁ………あー、そうだっけ…」
夢じゃなかったのか……現在時刻は…5時。窓を開け、景色を眺める。
「にしても、綺麗な景色だなぁ」
朝焼けに照らされた街並み。中世ヨーロッパを連想させるような石造りの建物が並んでいる。
実際見たことないけど。
昨日聞いた話だと、もう日本に戻ることはできないらしい。おかしいだろ、って思ったりもするけど、俺にはどうすることもできないし、過ぎたことをグチグチ言ったってどうしようもない。
「もう、逢えないのか……」
秀斗も、轟さんにも………やだなぁ。まだやりたいことたくさんあったのに。お別れも言えてないのに。まだ電話無理やり切ったこと謝れてないのに。
ああ、こんなこと考えるな。どんどん気分が暗くなってくだけだ。せっかくの早すぎるセカンドライフなんだし。ちょっとは元気でいこう。
そんなことを考えている間に、時刻は7時前になっていた。
そういえば今日は何するんだろ?昨日はいろんなことが重なりすぎてすぐ部屋来て寝ちゃったし……
コンコン、とノックの音がした。
給仕の人かな?朝ごはんができ次第呼びに来るって言ってた気がする。
「はい、今開けます」
そう言ってドアを開けると、そこには昨日の絶世の美女がいた。
「おはようございます、ヨワイ様。朝食の用意が整いましたので、お呼びに参りました」
「おはっ、おはははははははっ、え、とぉ」
「ふふっ、どうか緊張なさらずに。今日はそれほど重要な予定がなかったので、わたくしが城内を案内しようかと」
「っと、そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね」
「わたくし、アズガルム王国王女、フィリア=アルネスト=アズガルムと申します。以後、お見知りおきを」
「お姫様!?」
なんでそんな人が…………ってか背高いな!?俺が171cmくらいだから、お姫様大体180cm位あるんじゃない?
「さあ、食事が冷めてしまいます。行きましょうか」
朝からこの美顔は心臓に悪すぎるぜ……
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「おぁ、広い」
案内されたのは、テニスコート4面分はあろうかという広さの食堂だった。すでにかなりの人がおり、とても賑わっていた。
「すごい混んでますね」
配膳とかじゃなくてビュッフェなんだな。
「普段はこの時間帯にここまで混むことはないのですが、最近は様々なことが重なっていたので、ここまでこんでいるのでしょうね」
なるほどね。戦争とかか…
「では、いただきましょうか」
…‥う~ん、あんまり見たことない料理だな。文化の違いかな?
ともあれ、流石に食べないのは失礼だし、食わず嫌いも良くない。案外美味しいかもしれないし。
「いただきます」
コーンスープみたいな汁物を一口すする。
「………………………いやおいし」
え、めっちゃおいしいんですけど。なんだこれ?コンソメっぽいけどすこし酸味が強くて、赤味噌と足して2で割ったみたいな、不思議な味だ。
次になんの種類かわからないけど、サンマみたいな見た目をしている、推定サンマを食べる。
「…………サケなんかい」
箸で身を崩し一口食べると、まんまサケの風味と食感が舌に伝わってきた。
ギャップ強すぎない?俺の記憶にある見た目してんのにぜんぜん違う味がする。
「お口に合いませんでしたか……?」
「あっ…いえっ、そんなことないです!なんか俺の知ってる見た目と味が一致してなかっただけで、とても美味しかったです!」
マズイなんてとんでもない。普通に美味しいし、パクパクいけちゃう。
「それならよかったです」
少しの会話をしながら俺の右横で食べているお姫様。
ご飯を食べる、ただそれだけなのに、所作の一つ一つが美しく、ある種の芸術品のように感じてしまう。整った目鼻立ち。こんなに綺麗だと横顔ですらも人々を魅了してしまうんじゃないか。少なくとも俺は魅了された。
「ところでヨワイ様」
「んっ……ごくっ、はい!」
「この後の予定なのですが、何かご要望などはありますか?」
「えぇっと……いえ、特には。俺はまだここのこともよくわからないので、お姫様にお任せします」
「そうですか。でしたら、修練場などはいかがでしょうか」
「修練場?」
「はい。修練場は、主に宮廷魔法師団、宮廷騎士団が使用しています」
「はあ」
「っと、この話はまた後にしましょうか」
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移動中、お姫様がこんな話をしてきた。
「ヨワイ様、わたくしはあなたに謝らなければなりません」
「え?」
「あなたを有無を言わさずこちらの世界に喚んでしまい、このような重責を負わせてしまい本当に申し訳ありません」
「え? いやっ、なんでお姫様が謝るんですか?」
「本来、このような決断は多くの議論を重ねたうえで行うべきでした」
「ですが、わたくし達は発案から実行までわずか2日で実行。わたくしが知ったのは当日です」
ほう。
「昨晩、あなたの部屋の前を通り過ぎた際、その、あなたが泣いているのを聞いてしまって………」
え、恥っず。そりゃまぁ結構大泣きしたけどさ、まさか外にまで聞こえてるとは…
「それを聞いて、やはり召喚などすべきではなかったと後悔しております」
「その気になればどんな手段を使ったとしても、召喚を止める事ができたのに、本当に申し訳ございませんでした」
頭を深々と下げ、そう告げてくるお姫様。
その姿は本心から言っているのだと感じさせる。
こうまで誠心誠意謝られて、許さない人はいないと思う。いるとしたらそれは、スマ◯ラやってる秀斗くらい意地の悪いやつだろう。場外に投げて復帰阻止のメテオ連発してくるやつ。
「え、っとぉ…とりあえず頭を上げてください」
「お姫様の謝罪は受け入れます。というかそこまでお姫様に怒ってませんから……」
「第一、過ぎたことをグチグチ言ったってしょうがないでしょう?お姫様が悪いわけでもないのに、お姫様に文句を言うのはお門違いですよ」
「っ、ヨワイ様は……心が広いのですね」
「そんな事ありませんよ。これは、両親の教えなんです」
「良い、ご両親なのですね」
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「ここが第一修練場です」
「おお、広い…!」
お城から渡り廊下を少し歩くと、一つ目の目的地に着いた。
めっちゃ広い。さっきの食堂もかなりの広さだったけど、こっちは少なく見積もってもその倍はある。そういえば、広さの指標でよく東◯ドーム何個分とか使われてるけど、はっきり言ってわかりづらいよね。俺行ったことないし。この修練場は……多分阪◯競馬場ぐらいある。
「一見してかなり広いですが、実はこの空間はある種の異空間のようなもので、実際は扉さえ確保できればいいので全く幅はとらないんですよ」
そうなんだ~魔法って便利。
そんなことを考えていると、1人の男性が近づいてきた。
「おや、フィリア様ではありませんか。本日はどのようなご用件で?……そちらの方は…」
「ミブルフさん。今日はこちらの方に城内を案内しているところです」
……‥なんか胡散臭いなこの人。
「どうもはじめまして。宮廷魔法師団団長、ミブルフ=クズァードといいます。よろしくお願いしますね」
「よっ、世和井狩真といいますっ!よろしくお願いします!!」
「貴方が例の……ははっ、そう緊張せずとも。元気があっていいですね」
「して、フィリア様。ご用件とは、この方についてですか?」
「はい。まずは魔法師団で魔法に触れてみるのがいいかと思いましてね」
「なるほど。ですが………………」
ミブルフさんが俺をじっと見つめてくる。
「やはり、魔力が見受けられませんね。こんなことが………」
「そうですか。貴方の目で見てもそうなのなら、間違いないのでしょう」
「え?え?」
なになに?どゆこと?なんか不穏な会話してるんだけど。俺には魔力がないってことですか?
「ヨワイ様、あなたのいた世界は、魔法、または魔力というものがありましたか?」
お姫様が聞いてくる。
「い、いえ。ありませんでしたが……もしかして俺って魔力がなかったり……?」
「…はい。本来ならば魔力とは、生きとし生けるものすべて、無機物にも備わっているものなのですが…」
「魔力がないということは、魔に触れられないということ。魔に触れられないということは、魔法等、魔力を介するものすべてが使えないということです」
「マジすか」
え?こういうのって魔力チートとか色々与えられるもんじゃないの?前途多難すぎね?
俺が気落ちしていると
「そう落胆なさらないでください。あなたはまだ魔力という概念に触れて間もない。これから発現するということも十分にありえます」
……………そうだよな。お姫様がこう言ってくれてるんだ。信じろ。俺に希望はある!!!!!
「はいっ!!!」